第26章 鬼を狩るもの✓
「鬼はなんの為に再生能力を有していると思う? 必要ないからだよ。蛍ちゃんのその足だって、そのうちにまた生えてくる。不要だから替えが利く。そこにいちいち傷付く必要なんてないと思うけどなあ」
「…話にならない」
飄々と言ってのける童磨に、諭すような気配はない。
それが当然のことだと思っているからだ。
どんなに言葉を交わしても延長線上のままだと、蛍は早々見切りをつけた。
元から童磨とは相容れないと知っている。
「テンジ、遊ばなくていいからね。嫌なことは嫌って言っていいの」
「え~、ちょっと面白そうだったのになあ」
「面白そう、なんて理由で手足を捥がれたら堪ったもんじゃない」
「そう? でもすぐに生え」
「てきても! 痛いものは痛いし嫌なものは嫌なの!」
「我儘だなあ…」
「どっちが!? 断りもせず足を砕いたそっちの方が身勝手では!?」
「なら、もう一本蛍ちゃんの足をくれるかな? あ、腕でもいいよ。これなら」
「前もって訊けばいいってもんでもありません誰がやるか一昨日来やがれ」
常ににこにこと笑顔を絶やさない童磨とは対照的に、毒突く蛍の目は虫けらを見るかのようだ。
しかしそんな目を向けられれば向けられる程、童磨の口元は愉快そうに笑う。
「あっはは! 相変わらず蛍ちゃんと話していると楽しいね。暴力を振るわない猗窩座殿みたいだ」
「意味ガワカリマセン」
「俺達、良い友人になれるってことだよ」
「遠慮シマス」
「うーん、そうだねえ。俺も友人というよりは、蛍ちゃんとは特別な関係でいたいかな」
冷たい視線も敵意を持った圧もなんのその。
易々と距離を縮めると、童磨は破顔を止められないままに蛍に笑いかけた。
「離れてよくわかったんだ。手が届かないって、とても歯痒いものなんだね…またこうして蛍ちゃんに触れられることが、とても嬉しいよ」
「っ…!」
身を屈めて手を伸ばしてくる。
童磨のその青白い手が視界に入った途端、蛍は反射的に身を竦ませた。
氷のような冷たい手が、無理矢理に熱を起こさせた。
あの日の凌辱を、思い出して。