第26章 鬼を狩るもの✓
「そうだなあ…その目と、手足。それとその髪も綺麗でいいね」
ふむふむと、品定めするようにテンジを見下ろす。
童磨の目に映る少年に、先程までの体を溶かしたような怪我は見当たらない。
綺麗な顔立ちの健康児そのものだ。
「俺が勝ったら、その部位を頂こうか。この身体にはまだ肉付けが必要なんだ」
童磨に悪意などない。
しかし上弦という絶対的に立場の違う鬼を前にした気配は、テンジにも伝わったのだろう。
一歩、小さな足が後退る。
「あれ、どうしたの? 今更怖くなったのかな? 可笑しいなあ。君だって散々人間相手に遊んできたんだろう?」
無邪気な子供のように、蛍に遊戯を強請る姿は童磨もリボンを通して知っていた。
そうして幾人もの人間の名を奪ってきたことも。
「相手の何かを奪うなら、奪われる覚悟もしておかないと。鬼の子だからって、人間の幼子と同じ扱いはしないよ。鬼は鬼だ」
声は責めるような音色ではない。
それが当然だとばかりに告げながら、ゆるりと童磨は頸を傾け問いかけた。
「さあ、なんの遊びをしようか?」
問いでありながら問いではない。
これは強制的な遊戯への誘いだ。
「…何かな?」
蛍の前ではあんなにも饒舌だった幼い口は、固く結ばれたまま。沈黙を作る二人の間に、視界を遮るように細い腕が横切る。
テンジを庇うように片手を前で伸ばしていたのは、片足を失くし座り込んだままの蛍だ。
「テンジは、さっきまで大きな怪我を負ってた。遊べる状態じゃない」
「そうかなあ。その怪我も見たところ、すっかり完治しているみたいだけど」
「…体の傷は、本当は時間をかけて治すものなの。じゃないと心も一緒に癒せない。この子の体は治っていても、心はまだ治っていない。引っ掻き回さないで」
「へえ…? 面白いことを言うね。蛍ちゃん」
「本当のことを言っただけ」
内心「杏寿郎の受け売りだけど」と付け足して。童磨から目を逸らさず言い放つ蛍に、テンジは幼い目を見開いた。
団栗眼が、蛍の姿を穴が開くほどに見つめて、揺らぐ。