第26章 鬼を狩るもの✓
「うんうん、その通りだ。わかったよ。男の肉はお勧めしないけど、蛍ちゃんが餌にすると言うなら譲ろう」
「ぇ…餌、って…何言ってやがる…」
「ん? 餌は餌だよ。君みたいな人間は、俺達鬼の空腹を満たす為だけに存在しているんだから。それ以上も以下もないだろう?」
何を可笑しなことを、と言いたげに、童磨はきょとんと頸を傾げてみせた。
微塵も疑問を抱かず告げる様は、蛇に睨まれた時のような威圧よりも与助の背筋を凍らせる。
「っテ…テンジ! こいつを今すぐ此処から追い出せ! テンジッ!!」
「てんじ?…ああ、」
ぱちんと閉じた扇で、ぽんと掌を打つ。
腰を上げた童磨が振り返り捉えたのは、離れた所で怯えるように様子を伺っているテンジの姿だった。
「多分、君の名前かな? 随分と興味深い血鬼術だねえ。此処、君が創ったのかい」
「…ぁ…ぅ…」
「…ふぅん、成程。中々に珍しい鬼の子だね」
「何してやがるテンジ! 言うことを聞けッ!!」
「そう怒鳴らないでおくれよ。聞こえてるから」
必死な与助の剣幕に、やれやれと肩を竦めた童磨がテンジに問う。
「だ、そうだ。俺を此処から追い出せるかな?」
「…ぁ…あそ、ぶ…」
「遊ぶ?…ああ! 君は遊戯を介して術を発動するんだね。うん、面白い」
「遊戯を、介して…?」
「上弦みたいに純粋な強さを兼ね備えている鬼なら別だけど、血鬼術というのも多様性があってね。発動条件を備えることで強さを増す術もあるんだ」
童磨の説明で、すぐに蛍の頭に思い浮かんだのは京都で出会った華響だった。
柱である杏寿郎を追い詰める程の強力な術を持っていたが、歌詞を聴かせなければならなかったり、花を咲かせなければならなかったり、条件のようなものは幾つか存在していた。
「その類の鬼と見た。いいよ、君が選んだ遊戯をしようじゃないか。俺が負けたら、恐らくこの世界から容赦なく追い出されるんだろう」
ゆらりとテンジの前に立つ。
「その代わりこちらが勝てば、俺も君を好きにしても文句はないよね?」
190cm近くある童磨の姿は、幼い少年には恐ろしく見えたのか。気圧されるように、テンジは身を震わせた。