第26章 鬼を狩るもの✓
彼女の視点は無惨であっても共有はできないし、居所を掴むこともできない。
傍にいれば脳内対話くらいなら可能だろう。
今、童磨がこうして蛍の脳内に語り掛けられたように。
つまりは、鬼狩りと共に暮らしている鬼など無惨が放っておくはずがないのだ。
なのに今まで"彩千代蛍"という鬼の存在を上弦の誰もが知らなかったのは、蛍自ら無惨の手から逃げ切っていたということ。
故にリボンから見る視界は把握できていたが、蛍が足首を隠している時は童磨の視界は遮られていた。
確認できたものも映像のみで、会話などまでは把握できていない。
それとなく知った情報のみで、さも当然のように童磨が語りかけたのは、賭けのようなものだ。
そんな詳細など知らない蛍は、全てを知られてしまったのだと動揺した。
「それより蛍ちゃんの周りは面白いことが尽きないね。本当は、また出会える時までリボンは外さずにいる予定だったけど…」
切り替えるように、視点をずらした童磨が捉えたのは、腰を抜かしたように座り込んでいる与助。
「少し、面白くなくなったから。つい出てきてしまったよ」
喰らうにも値しない人間の男。
見下ろす童磨の瞳からは、冷たい気配しか伝わらない。
「やあ、初めまして。君みたいな人間に自己紹介する必要もないんだけれど。少し誤解しているみたいだから、教えておこう」
「ひ…ッ」
一歩、与助へと踏み出した童磨がにこりと笑みを浮かべる。
「蛍ちゃんは君みたいな男が好き勝手できる玩具じゃない。殴るなんて以ての外。気持ちいいことだって一方的じゃ駄目だ。お互いに得られる快感でないと」
更に一歩。
力なく後退る与助に易々と追い付くと、童磨は身を屈めて顔を近付けた。
「それら全ては俺の特権だ。たかが人間の男が、触れていいものじゃあない」
与助にだけ聞こえるように、低く静めた声が警告を示す。
蛇に睨まれた蛙のように、与助は息を呑むことしかできなかった。
細める虹色の瞳から、低く響く音色から、伝わる圧は背筋を凍り付かせる。
考えるよりも早く本能が理解した。
頭から一気に食われるような恐怖。
自分はこの男に、捕食される側なのだと。