第26章 鬼を狩るもの✓
「な…ん…」
「? ああ、俺はずっとそこにいたよ。蛍ちゃんにあげたリボンは俺の体の一部だからね」
はくはくと口を動かすだけで、まともな問いも出てこない。
そんな蛍の思考を読み取るように、童磨は笑顔で応え続けた。
「リボンを通して、色んなものを見せてもらった。とても興味深かったよ」
開いた扇で口元を隠し、柔らかな笑みに僅かな歪さが混じる。
「まさか鬼狩りの男とできていたなんて」
「っ…!」
ぞわりと、体温が一気に下がるかのような悪寒を蛍は覚えた。
童磨の血鬼術による影響ではない。
強い危機感を悟ったからだ。
相手は無惨の片腕ともなる鬼。
その鬼に鬼殺隊の内部を知らせてしまってはいけない。
鬼である自分が、柱である杏寿郎と繋がっていることは。
「ち…違…あれ、は…」
「違う? 何が? 蛍ちゃんが人間と繋がっている気配は前々からしてたけど、まさか相手が鬼狩りだとは思いもしなかったよ。なんとも面白い情報だった」
「見た」と告げた通り、童磨は蛍の日常を全て覗いていたのだろう。
弁解のしようがない。
沈黙を作り俯く蛍を、童磨は感情の見えない瞳で見下ろした。
(…やっぱり覗けない)
そう、こうして見ることはできる。リボンの視点から。
しかし視界の共有はできない。
鬼は、自分より格下の鬼の視界なら共有することができる。
勿論、無惨の許す範囲でだが、その能力でよく猗窩座の視界を覗き見ていた童磨は、とうとう猗窩座の苦情により無惨から禁止令を出された。
しかしそれは猗窩座に対してのみだけで、他の格下の鬼の視界なら覗き見ることができる。
なのに何故か蛍相手に、それは通らなかった。
結び付けたリボンから世界を見渡すことはできたが、蛍本人の視界を覗くことはできなかったのだ。
それが何を意味するのか。
(見たところ実力は上弦には遠く及ばないみたいだけど…得体は知れない。あの珠世とかいう鬼と同じ類かもしれないな…)
無惨の呪いを自ら断ち切っている鬼は、確認しているところでこの世に一人。
珠世という、童磨よりも長く時を生きている古(いにしえ)の鬼だ。