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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓



「あの女が、お前みたいな売女に成り下がらずにいられるのはなんでだ。すぐさま売っ払っちまってもいいんだぞ」

「…っ」


 与助の手首を押さえ付けていた手が、渋々と離れる。
 拘束から解放されても表情は変わらず。舌を打つと、与助は再び手を振り被った。


「最初からそうしてろッ!」


 パン!と乾いた音が蛍の頬を打つ。
 平手打ちにより赤く染まる頬に、それでも蛍の瞳は陰らなかった。

 無言で睨み付けてくる目に、与助は更に舌を打つ。
 いつもならその生意気な目がいいのだと見下していたが、今は反抗的なものは全て虫唾が走った。

 理由はわかっている。
 どんなにその体を好きにしようとも、蛍の心は常に一つに向いているからだ。

 杏寿郎と言う名の、その男に。


「っ煩ェな!!」

「ッ…何も、言ってない…っ」

「言ってんだよその目が! お前の目はいつもオレを透かして別のもんを見てやがる…!」


 感情の沸き立つままに、与助の手が蛍の頸を鷲掴む。
 伸し掛かられて膝をつく蛍は、顔を歪めて与助を睨んだ。

 そんなこと、とうに知っている。
 月房屋で「その目が気に入らない」と罵られ、何度男達にぶたれたことか。
 それでも変える気はなかった。
 心までは男達に屈しまいと決めていたからだ。

 染まるものか。
 同じに汚い体であっても、心までは同じになるものか。
 力づくで弱き者を蹂躙するような輩に、負けてなるものかと。


「お前みたいな尻軽が、一端に家庭なんか築ける訳がねぇ! ましてや化け物になったお前を、人間様が相手する訳ねぇだろうッ!」


 蛍の頸根っこを掴んだまま、忌々しく視界をちらつくそれを与助は引っ掴んだ。


「こんなもの未練がましく付けやがって…!」

「ッ…」


 力任せに引かれ、皮膚が締め付けられる。

 与助が怒りのままに掴んだのは、蛍の足首に飾られた虹色のリボンだった。
 丈の短いスカート姿では、光の反射で煌めく美しいリボンはどうしても視界に入ってくる。

 それが与助には忌々しくて堪らなかった。

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