第25章 灰色万華鏡✔
求める指先が伸びる。
冷たい鏡の表面に触れた──
気は、しなかった。
「!?」
ぐんっと視界が目の前の光景に迫る。
それは背を押されるというよりも、体が引き摺られるような感覚だった。
見えない強い力に鷲掴まれて、抗う暇もなく目の前の永遠とも取れるような暗いトンネルへと引き摺り込まれる。
「兄上…ッ!?」
「チィッ!」
千寿郎の悲鳴と実弥の舌打ちが耳に届く。
振り返ろうとした。だが振り返られなかった。
そんな隙間も与えることなく、小さな手鏡は杏寿郎を飲み込んだのだ。
飛び出そうとした千寿郎の肩を前から押さえて阻止する実弥の目は、頭から鏡の中へと吸い込まれる杏寿郎の姿が見えていた。
時間にして一瞬。声をかける隙もない。
瞬くような間に、同胞の体は鏡の中へと取り込まれた。
残されたのは、ぱたりと支えを失い落ちた、手鏡が一つだけ。