第25章 灰色万華鏡✔
「(反射した世界を映すなんて…まるで鏡みたいだ…)……鏡?」
「あ?」
「む?」
自分自身の言葉に問う。
はたと顔を上げた千寿郎は、その引っ掛かりを過去の記憶から拾い上げた。
「獅子舞!」
「獅子舞?…神幸祭の、か?」
「はいっあそこで変な獅子舞を見たでしょう? 急に中の人が消えた」
「そういや、あったなァ。中には鏡だけしかなかったってやつか」
「それです。その鏡!」
神幸祭の余興として行われていた、獅子舞の奉納。
其処に現れた一匹の獅子が、不可思議な行動を見せていた。
突如地面に伏せたかと思えば、胴幕の中に動かす為の人はおらず。罅割れた手鏡だけが出てきたのだ。
何がきっかけでその鏡を見つけ出したのか、詳細は掴めない。
それでも千寿郎の記憶に、実弥達の記憶にも確かに残っていた。
「その鏡がどうかしたのか?」
「似ていると思ったんです。兄上の言う、障子の硝子に見た世界と。反射と言うなら、まるで俺達の世界を映している鏡みたいだなって」
「成程なァ」
「不死川様、あの手鏡はまだ…?」
「ああ。一応、取っておいてあるぜ」
どんなに調べても何も出てこなかった、ただの手鏡。
それでも破棄せず取っておいたそれを、実弥が懐から取り出した。
「兄上、その鏡の中を」
「わかった」
丸い鏡に、握る為の棒状の持ち手が付いた、極々普通の手鏡だ。
千寿郎が言わんとしていることを理解した杏寿郎が、一つ返事で持ち手を握る。
小さな罅が入った鏡の中を覗けば、己の顔が映し出されていた。
「うーむ…特に変わった様子はないな…よくある鏡だ」
「何も見えませんか? 普段と違うところは…」
「うむ…」
部屋の中を回りながら、手鏡に映し出された背景を確認する。
しかし何処を映しても、見慣れた室内が映されるだけだ。
「残念だが、目を止めるようなものは」
──カシャン
「な…い?」
見た目に変化は何もない。
しかし微かに耳に届いた、物音が。
「兄上?」
「しっ。静かに」
沈黙を促す杏寿郎に、空気に緊張感が走る。
慌てて口元を押さえる千寿郎と、鋭い眼で辺りを警戒する実弥。
唇に人差し指を立てたまま、じっと待つ杏寿郎の耳に、先程の不可思議な物音は聞こえない。