第25章 灰色万華鏡✔
「ったり前だろ。鬼殺隊に関与している鬼なら、俺も見逃せねェ。だがそれなら、お前が見たもんを一から洗いざらい教えやがれ。話はそれからだァ」
「そうですね…兄上は、ここに何が見えたんですか?」
踏み出す実弥と、頷く千寿郎が興味を示したのは、杏寿郎の手により真っ二つにされた障子だ。
「見知らぬ女史の姿だ。西洋の衣服を身に纏っていた。それと彼女に纏わり付いていた、無数の小鬼のようなものも。悪鬼と見て斬ったんだが、硝子の中で荒れ狂っただけで消えてしまった」
「西洋…異国の方ですか?」
「容姿は同じ日(ひ)の本(もと)の国の者に思えたが…如何せん薄暗くて、はっきりとはわからなかった」
「前に、消えた女も西洋の恰好をしてたって言ってなかったかァ?」
「む?…そんなことを言ったか?」
「言っただろ。…多分」
問う実弥自身も曖昧だったのは、言葉通りに記憶も曖昧だったからだ。
それでも杏寿郎と、以前そんな会話をしたように思う。
その延長線上で、誰かに対して杏寿郎が大層惚気ていたような。
(惚気?)
自分自身に内心、問う。
杏寿郎とはそれなりに長い付き合いだが、今まで女の影などなかった男だ。
惚気など、到底似合わない。
「ううむ…もしやそれも神隠しが関係しているのかもしれないな…」
「ったく、面倒なこった」
記憶を辿ろうにも、その記憶が誰も彼もがつぎはぎだらけ。
ガシガシと己の頭を掻きながら、実弥は突破口を見つける為に再度問いかけた。
「ンで、その女は今は」
「彼女も同じに消えた」
「なんにも見えねェな…言われてみれば違和感は覚えるが、悪鬼特有の気配はしねェ」
片膝を付き、硝子に顔を寄せる。
しかしどんなに目を凝らしても、杏寿郎が説明した人影の片鱗さえも捉えられない。
「では、もうここには何も映っていないんですね…」
それは千寿郎も同じだった。
「ああ。背景はこの屋敷の庭と同じものだったから、最初は反射して映っているだけかと思っていたんだが…もしかしたら向こうにも、似たような世界があるのかもしれないな…」
「…反射…」
呟く杏寿郎の言葉を、千寿郎が復唱する。
じっと見下ろす罅割れた硝子は、暗い天井を映し出している。