第25章 灰色万華鏡✔
「だが見つけ出すのは俺の役目だ。千寿郎に危ないことはさせられない。代わりに、その知恵を貸してくれ」
「知恵、ですか…? 俺にそんな大層なものは…」
「何を言う。お前は賢い。学問の成績だって俺より上だ。それに知恵と言っても、千寿郎の考えが知りたいだけだ。無理に絞り出す必要はない。そうだろう、不死川」
千寿郎だけを見つめていた杏寿郎が、静かに傍観していた実弥を捉える。
実弥が口を開く前に、ばさりと聞き覚えのある羽音が届いた。
月明りを背に浴び、夜目の利く生き物が正確に狙いを定めて飛んでくる。
上げて翳した実弥の腕に、ふわりと舞い降りたのは相方である爽籟だ。
「よもや、もう言付けを終えたのか?」
「だろうなァ」
爽籟の足首に結ばれていた文を解く。
一日半で天元との間を往復して見せた爽籟は、流石風柱の鎹鴉と言うべきか。
「……」
「して、宇髄はなんと?」
静かに文に目を通していた実弥が、無言で何かを放る。
ぱしりと杏寿郎が受け取ったのは、預けていた宝石だ。
「これは宇髄のものではなかったのか…?」
「いいや。確かにアイツの飾りだったらしい。一目でわかったんだと」
「ならば何故…」
「だがそれは、誰に宛てたか憶えはないが、確かに信頼できると感じた相手に預けたと書いてある。…つまり柱である宇髄の信用に足る人物。そいつが、あの簪の持ち主ってことだ」
その言葉が何を意味するのか。
柱の信頼を得ている人物ならば、それは悪鬼ではない。
鬼であったとしても、禰豆子のように誰かしらに特別な目を向けられている者だ。
その目の主は、音柱の天元か。鬼殺隊の頭である耀哉か。
もしかしたら──杏寿郎自身も、そうなのかもしれない。
「…不死川も協力してくれ」
手の中の宝石を、強く握り締める。
「やはり早急に見つけ出さなければ」
同時に、危機感も湧く。
天元は、宝石を預けた相手に憶えがないと言った。
つまり離れた地にいるはずの柱にまで、神隠しの域が及んでいるのだ。
物理的に離れた相手の精神にまで及ぼす力。
それが悪鬼のものであれば、ただならぬ脅威である。