第25章 灰色万華鏡✔
『風の呼吸の使い手か。君とは相性が良さそうだ!』
それが、初めて煉獄杏寿郎という男を見るきっかけとなった言葉だった。
初めて顔を合わせた時は、すごぶる合わない相手だと思った。
実力を見る為と殴り掛かれば「俺は君を殴りたくない」と突っ撥ね、且つ「熱い心の持ち主と見た」と笑顔で礼まで言ってくる。
そんな気毛頭ないというのに、話を聞かない。なんとも噛み合わない相手だと。
しかし炎の呼吸を扱うこの男は、炎には風が欠かせないものだと、実弥とは正反対の意見を述べては笑うのだ。
何処を見ているのかわからない笑顔ではなく、砕けた屈託のない笑みで。
ただの呼吸の相性だろうと特に相手にしなかったが、なんとなくその時から目立つ焔色の頭を見るようになった。
はっきりと白黒付けて己の意見を口にする杏寿郎に、煩わしさを感じる時はあれど、負の感情はそこまで感じなかった。
時は経ち、同じ柱として対等な身となり。稀にある合同任務では、背を預けるようにもなった。
初めての拳は一方的なものだったが、今では互いに"鍛錬"と認めて拳を交えられる。
それだけ互いを認め合えたからなのだろう。
それなりの意思疎通はしてきたつもりだ。
しかし今は、その同胞の心が見えない。
突拍子のない行動は、杏寿郎の心がそれだけ不安定に左右されているようにも思えた。
「…俺にも、よくわからないんだ。ただ、俺のあずかり知らないところで心が逸る。失ってはいけないと叫ぶ」
「それを術にかかってるって言うんじゃねェのか」
神隠しだけが血鬼術ではないのかもしれない。
この同胞の心を搔き乱していく様もまた、鬼の狙いなのだとしたら。
「目ェ醒ませ。お前が追ってるモンは、なんであろうと"鬼"だ。そいつが"答え"を持っていたとしても、それはここに食らい付くモンかもしれねェぞ」
胸倉を離した拳が、杏寿郎の喉元に触れる。
「不確定なモンを追うなら、見えるものも把握しとけェ。此処には俺だけじゃねェ、千寿郎がいる。お前、得物を抜いた時それが見えてたか」
は、と見開く杏寿郎の双眸が、実弥の背後に立つ少年を捉えた。