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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



「なら片付けるかァ」

「そうですね」

「……なぜ」

「兄上?」

「何故、父上はあんなことを言ったのだろう…」


 じっと注射器を見下ろしたまま、杏寿郎が疑問を零す。


「何故って、あの親父さんは記憶していたからだろォ。俺らの知らないことを」

「そこだ。何故俺達は知らないのに、父上は知っている? その違いはなんだ?」


 同じ人間で、同じ呼吸法を身に付けている者。
 同じ土地に住み、同じ食事を口にしている者。

 なのに槇寿郎には自分達にはない記憶が存在している。
 自分達と、父との違いはなんなのか。


「さァなァ。そんなこと術をかけた者にしかわからねェよ。今は過程じゃなく結果を見ろ、煉獄。お前の中にある曖昧なモンを見つけ出せれば、その答えもわかんだろォ」

「…そういうものか…」


 なんとなく納得し兼ねるが、実弥の意見も一理ある。
 自分の知らない間に、関わっていた誰かが消えた恐れがある。
 善悪は関係なく、今後千寿郎達他の村人に被害が向かないよう、その者は見つけ出さなければならない。


「とにかく、この部屋の物を片付けましょう。父上に見つかったら何か言われるかもしれませんし…」

「だなァ」

「うむ…」


 仕方なしにと、注射器を元あった箱の中に戻す。
 山々と積まれた道具を軽々と担ぐと、千寿郎を先頭に廊下へと出た。


「不死川様は、それを運んだら休まれてください。後は私がしまうので。お手数おかけします」

「子供が大人に気遣うんじゃねェよ。お前には家事っていう仕事があんだろォ。寧ろ片付けは俺と煉獄でやるから、お前はお前の仕事をしてろォ」

「そ、そんな…不死川様だって柱という大事なお仕事があるのに」

「馬ァ鹿、仕事の延長線上だ。これは」

「部屋の片付けが、ですか?」

「…言葉にすると阿呆臭ェな」


 先を歩く弟と同胞の会話を耳に、杏寿郎は沈黙していた。
 二人の会話は邪魔なものではないし、寧ろ聞いていて心地良いものだ。

 なのに何故か。


(…この家は、こんなにも広かっただろうか…)


 これだけの品を片付けられる屋敷だ、広くて当然のはず。
 なのに何故か、見渡す廊下が長く感じる。
 耳に響く二人の会話があるというのに、何故か物寂しく感じてしまった。

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