第25章 灰色万華鏡✔
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「うーむ」
とっぷりと日も暮れた頃。
部屋の中心で、腕組みをした杏寿郎が呻る。
「何か思い出したかよォ?」
部屋の隅に座り込み、立てた両膝に腕を乗せて様子を伺っているのは実弥だ。
「皆目見当もつかないな!」
笑顔のままに言い切る杏寿郎は予想通り過ぎて、実弥は深い溜息をついた。
「どうすんだァ、この山は」
「直すしかあるまい!」
「…ハァ」
二度目の溜息は、目の前の光景を見て。
山積みにされた道具や衣服、小物類は、全てこの屋敷内から発掘したものだ。
杏寿郎自身が見て回ったものはそのままに、実弥と千寿郎とで杏寿郎の所まで持ち出した品々が山積みと化していた。
それだけで丸一日はかかったのだ。
現時点で二日目の夜。
ただ掘り起こすだけでなく、山積みの品々から記憶を辿るとなれば時間もかかる。
それでも成果は何もなく。
更にここから元の場所に直す作業を想像すると、三度目の溜息をつきたくなる。
「し、不死川様は休んでいてください。後は私が直しますから…」
「そうはいかねェ」
おずおずと切り出す千寿郎には即答で頸を振ると、仕方ないと腰を上げる。
「本当に何も感じねェんだな?」
「ああ」
呼びかけた杏寿郎は、未だ山積みの品々を観察し続けていた。
その手に握られているのは、鋭利な針を持つ注射器だ。
「あの髪のように何か感じるものはないが…痕跡は、あるのだと思う」
煉獄家に、注射器のような医療専用道具は置いていなかったはずだ。
(胡蝶が使う道具に似ているな…)
となれば鬼殺隊が関与しているのか。
そこに強く結び付くのは、鬼である。
なんにせよ用途はわからないが、必要だから此処にあるのだ。
納屋に片付けられていたはずの瑠火の日傘や衣類が、すぐ使える状態にあったことも。
趣味ではない花束が、自分の部屋に飾られていたことも。
そして槇寿郎の、不可解な言動も。
(何もぴんとこない。だからこそ可笑しいんだ)
意味があって存在するものだ。
その"意味"だけが、ぽっかりと自分の中から抜け落ちているかのようだった。