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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



「うーしろーの、やーまーに、すーてまーしょーか」

「うぇえん…!」

「いーえいーえ、そーれーはー、なーりませーぬー」

「ふぇえ…っ」

「うーたーを、わーすれーたー、かーなりあーはー」

「…ひっく」


 歌声を掻き消していた泣き声が、萎んでいく。
 その歌に耳を傾けていたいが為に、消えていくようだった。


「せーどーの、こーやぶーに、うーめまーしょーかー」

「……」

「いーえいーえ、そーれーもー、なーりませーぬー」


 背を撫でる優しい温もり。
 静かに彩る心地良い音色。
 うと、と少年の頭が下がり、蛍の肩に乗る。
 ずしりと支えを失いかかる重みに、蛍は眉を八の字にしたまま笑った。


(泣き疲れ、かな)


 荒立つ泣き声が、今度はすぅすぅと一定のリズムで寝息を立て始める。
 泣けば泣くだけ気力も使う。
 鬼のテンジに疲労は無縁のものかもしれないが、これだけ大掛かりな血鬼術を操っているとなれば疲れて当然だろう。


「ん、しょ…と」


 小さな体を縁側に持ち上げて、膝に頭を乗せて寝かせる。
 蛍の服を握り締めたまま寝入る少年の姿は健気にも見えて、くすりと口元は綻んだ。


(本当、不思議な子だな…)


 一先ず安堵すると同時に、やはり疑問は湧く。
 この世界の創造主であるテンジが眠りについているというのに、世界は微塵も揺らぎはしない。
 それだけの力を持っているのか。瞼の縁に涙を残して眠る少年からは、とてもじゃないが想像はつかない。


「…ごめんね」


 そんな少年だから、自然と罪悪感も浮かぶのだろう。

 テンジの行動は、基本は無垢な思いからだ。
 ただ蛍をこの地に連れて来てくれたのは、明らかな善意だった。
 蛍の為と思って起こした行動だ。そんな少年を置き去りにしたのは失態である。

 体を横たえ蛍の膝を枕にするテンジの、背をとんとんと軽くあやす。


「…唄を…わーすれーた…かなりあ、は…」


 自然と続く歌声は、先程よりも優しい。

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