第25章 灰色万華鏡✔
「きゅうじゅう、きゅう。ひゃーく」
ふわふわと漂うように浮かぶ、綿あめのような雲。
その陰の中で座り込んでいた少年は、小さな小さな声で唱え続けていた。
ひゃく。と数えてもう何度目だろうか。
鬼である蛍が捜しに来てもとっくにいい頃だ。
しかし自分を呼ぶ声も、足音も、何も聞こえない。
「…いーち。にー」
屈み込んだまま、膝の上でぎゅっと小さな拳を握る。
何度目かもわからない次の百まで、また暫くはかかる。
その間にきっと声は聞こえる。
足音も鳴るはずだ。
隠れんぼなのだから、きっと見つけ出せていないだけ。
「ちがうよ」
唱える声は、途切れていた。
「また、おいていかれるよ。きっと」
舌足らずな声には似合わない、静かで冷たい声だった。
「だって、きらいだから」
「さわりたくない。しゃべりたくない。きえてしまって」
「そう、おもってるから」
「…ちが、う」
「ちがうは、ちがうよ」
「だってあのひとも、おとなだから」
「おとなはいっしょにあそばない」
「いいこにしていないとおこられる」
「うるさくしたらだめ。わがままいったらだめ」
「だって、ほんとうは、」
「っ…ちがう!」
重なり、連なり、沈み合う。
連鎖する声を阻むように、声を張り上げた。
「ほたる、ちがう! おとな! ちがう!!」
抱えた頭を振り被る。
彼女は違う。
大人だが大人ではない。
だってほら、こうして一緒に遊んでいる。
目線を合わせて、話もしてくれた。
嫌われていない。
迷惑していない。
「ほたる、おに! てんじ、にげる! おに、てんじ、くる!!」
隠れんぼをしようと言ってくれたのだ。
一緒に遊ぼうと、誘ってくれた。
こうしてきちんと隠れていれば、いつか必ず見つけてくれる。
だって、彼女は。
「うん、確かに鬼だけど。あんまり連呼しないで欲しいかなぁ」
「──!」
膝に埋めていた顔を弾き上げる。
呼ぶ声は聞こえなかった。
足音も捉えられなかった。
それでも確かに彼女は其処にいた。
「テンジ、みーつけた」
テンジの大きな瞳に映った顔が、犬歯を見せてにっと笑う。