第25章 灰色万華鏡✔
「さっきの約束。遊ぼっか」
「! ほんとッ?」
「うん。前はテンジが鬼だったから、今度は私が鬼ね。かくれんぼって知ってる?」
「しってる! かくれんぼ!」
「よし。じゃあ私が百数える間に、見つからないように隠れてきて。いい? ちゃんと見つからないように、だよ」
「ん! わかった!」
始終話をしている間も、律義に目元を隠したまま。くるりと背を向けると、ようやくテンジは両手を下ろした。
「ほたる、おに! てんじ、にげる!」
「隠れる」
「かくれる!」
「よくできました。じゃあ、よーい…始めっ」
蛍の掛け声と同時に、小さな足が駆け出す。
振り返ることなく一心に駆けていく少年は、既に遊びに夢中だ。
「かくれんぼねぇ…はっきり言やぁよかったじゃねぇか。今から大人の遊びをするから、向こうへ行ってなって」
遠のくテンジの背を見送っていたのは、蛍だけではない。
心底可笑しそうに静かに笑う与助に、蛍の冷えた視線が向く。
「そもそもアイツに見られたってオレは構いやしなかったけどよ。どうせ意味なんてわかっちゃいねぇんだ」
「生憎、子供に見られたくらいで恥じらえるような乙女じゃない」
勘違いするなとばかりに吐き捨て、告げる。
見られたくなかった訳ではない。
「あの子に見せたくなかっただけ」
自分達が持つ、汚らしいものを。
「さっさと済ませて。私はあの子とかくれんぼの最中だから。負けたら名前を取られる」
「そりゃあお前の技量によるなァ」
緩く腕を広げる与助へと、重い足を向ける。
触れ合える距離まで近付くと、かさついた手が蛍の頸へと周り引き寄せた。
「爪や牙は引っ込めておいてくれよ」
耳元に寄せられる唇。
纏わり付くような男の息さえ気持ち悪くて、吐き気を感じる。
「優しく、頼むぜ」
ねとりと流し込まれる囁き。
耳を塞ぎたくなる衝動を抑えながら、蛍は目を瞑った。