第25章 灰色万華鏡✔
そんな女を己の好きにできるのは、どんな快楽より気持ちがいい。
「忘れるなよ。オレがお前を管理していた男の一人だってこともなぁ」
「…っ」
髪を優しく撫でていた与助の手が、がしりと蛍の細い頸を鷲掴む。
「仕事の時間だ。外で身売りをさせない代わりに、しっかりオレの相手をしてくれよ」
管理者であった男が"仕事"と言う。
それがどんな意味を成すのか、訊かずとも理解していた。
頭よりも、花街を泳いできたこの身体が嫌という程に。
「っ…本気で言ってるの」
「ああ本気だが?」
「私は、あんたの言う通り人じゃない、化け物だ。そんな生き物と人間がそんなことをしたら、どうなるか知ってるの?…後悔しても知らないから」
頸を締める手を跳ね返すことなく、蛍は真正面から与助を睨み付けた。
「そんなこと」と言葉をぼやかしたのは、口に出すのも悍ましかったからだ。
金を払って自分を買った男ならまだしも。金を生む道具として物のようにしか扱わなかった男と、肌を重ねるなど。
「本番はしなくたって、奉仕くらいならできるだろ?」
鬼の寿命が永遠であることを理解していても、人間と交わることでどんな結果を生み出すのかまでは理解していなかったらしい。
暫く考えると、与助は妥協案を口にした。
「お前のこれで気持ちよくしてくれよ」
「っぅ、く」
頸を掴んでいた手が緩む。
それも束の間。蛍の口内へと指を捻じ込むと、無理矢理に唇をこじ開けた。
「奉仕の仕方なら誰より知ってるだろ」
誰がお前なんかにと、罵ってやりたい。
実弥の時には必死にこらえたその指を、今すぐにでも食い千切ってやりたい。
だができない。
そんなことをすれば八重美が自分の身代わりとなってしまう。
仮にその前に与助を殺せたとしても、彼に服従しているテンジがどう動くか。
此処はテンジの世界なのだ。
捕らわれているのは八重美だけではない。蛍も間違いなくそのうちの一人である。
「……テンジ」
身を退いて、口に捻じ込まれた与助の指を吐き出す。
乱暴に口元を拭いながら、蛍が呼んだのは忠実に言い付けを守り目元を隠し続けている少年だった。