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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



「なぁ柚霧、笑えよ。お前は周りが言うより、ずっと魅力ある女だ」

「っ」


 は、と顔を上げた時には遅かった。
 目の前に歩み寄っていた与助が、伸ばした手で蛍の髪に触れる。


「周、り?」

「月房屋の連中だ。あいつらはお前の接待法ばかり褒めてたが、オレは違う。お前はあんな身売り小屋の無名遊女でいるような女じゃないってな」


 下ろしたままの蛍の髪を、与助の指がするりと耳にかける。
 びくりと体を強張らせる蛍に対し、その所作は優しいものだった。

 耳の上に違和感を覚える。
 思わず手を伸ばせば、身に付けた覚えのない飾りに指先が触れた。


「…これ…」

「お前が拾った髪飾りだ。値打ちのありそうなもんだから売ってもよかったが…ああ、こっち方がいい」

「っこれは八重美さんの髪飾りでしょ」

「あの嬢ちゃんはそれを憶えていない。返したって困るだけさ」


 大きな白いリボンに、宝石の飾られた髪飾り。
 今すぐにでも外してしまいたかったが、蛍の手を止めたのはそれこそ八重美の存在だった。

 自分がこの場にとどまり与助の言うことを聞くことで、八重美はその身を売られずに済んでいる。
 鬼殺隊に仕えることを責務として生きてきた八重美に、身売りの世界などを味わわせる訳にはいかない。
 それだけはあってはならないと思えば思う程、雁字搦めに蛍の行動は束縛された。


「こうして見ると、お前が遊女だったなんて思えねぇなぁ…良い家のお嬢さんみたいだ」

「…何がしたいの」

「あ?」

「どんなに身形を変えても、私は私。あんた達にされたことを忘れてない。一生、忘れない」


 忘れるはずがない。

 直接手は下してないと言っていたが、それでも与助は蛍にとって殺人者と同じだった。
 その悪意が姉を死に追いやり、自分を鬼へと変えさせたのだから。

 きりきりと緋色の目が縦に割れる。
 人間の頃より更に圧を増した蛍の眼に、与助はぞくりと背筋を粟立たせながら──笑った。


「ああそうだ。忘れるんじゃねぇ」


 そうだ。その目が見たいのだ。
 どんなに屈服されようとも、己を見失わないその目が。

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