第25章 灰色万華鏡✔
どうにも望む答えには辿り着けない。
にこーっと笑顔で頷くテンジには無垢な愛嬌があり、何度目となるかわからない肩透かしを喰らう。
「じゃあ与助は?」
「よ…?」
「テンジと一緒にいる男の人。こーんな嫌味な目をした」
両目尻に指を当てて、ぐにんと伸ばす。
嫌味全開で蛍が告げれば、途端にテンジの顔色が変わった。
蛍の表現に怖がったのではない。
それは与助の前で見せたものと同じ動揺だ。
「…ち、こわい…」
「それ、どういう意味?」
与助に対しても見せていた反応だ。
十中八九、与助による影響で出た言葉だろう。
何故、血が怖いのか。
鬼ならば求めるはずのものだ。
蛍は無意識のうちに身を乗り出して問いかけていた。
「与助に何かされたの? 酷いこと?」
「…ち…」
「血? 血を…与えられたの? それとも怪我させられた?」
ふるふると頸を横に振る。
小さな両手で目元を隠すように、テンジはぺたりと顔を覆った。
「ち。みる。こわい。あかい」
「血を…見せてくるってこと?」
「こわい」
(血を見ることが怖い…?)
痛みではなく、血そのものが怖いと言う。
ならば己が怪我をさせられた訳ではないようだ。
もしや誰かの流血を、見せつけられたのだろうか。
どちらにせよ。
(これじゃ普通の子供だ)
血を見るのが怖いなど。
何処にでもいる、普通の子供の反応ではないか。
(どういうことだろう…)
人間を何人も取り込める世界を造り出せる。
そんな異能を持つ鬼が、脆弱な訳がない。
華響も言っていたのだ。血鬼術は、人を喰らうことで強くなり身に付くものだと。
蛍も例外なく姉を喰らった鬼だ。
しかし目の前の血を怖がる少年は、とてもじゃないが人を喰らってきた鬼のようには見えない。
(これだけの力を、どうやって身に付けたの?)
やはり人の記憶を喰らうことが、血肉を喰らうことと同義なのだろうか。