第25章 灰色万華鏡✔
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「ほたるー」
「……」
「ほたる~」
「……」
「ほたる?」
「……」
「ほたるっ!!」
「んブッ!?」
穴が開く程に、地上が空に浮いている世界を見上げ続けていた。
いつまでも反応のない蛍に痺れを切らしたテンジが強く呼びかける。
それと同時に、動いてもいないのに足を滑らせた蛍が、その場で空という名の地面に膝と額を強打する。
「いった…急に引っ張らないでそれ…」
「ほたる! あそぼ~!」
「だから遊ばないて。そしてそれを引っ張らない!」
テンジが手にしているのは細く長い紐のようなものだった。
間近で見れば、ふわふわと柔らかな綿のようなもので出来ているのがわかる。
それは途方もなく終わりのない何処からか垂れており、終着地点は座り込んだ蛍の足首となっていた。
柔らかな綿のような、はたまた綿菓子のような、雲のような。ふわふわとした生地は肌に痛みを与えない。
それでも確かに"拘束"という役目を担っている。
形状は違えど、これは足枷だ。
指示したのは与助だった。
足枷さえ付けていれば、この世界をどう渡り歩いても良いと言われた。
「やーだー! あーそーぼー!」
「やーだー!じゃない!! 感傷に浸る時間も貰えないのかな私は!?」
それが何を意味するのか、蛍にも十分理解できていた。
結局逃げ道などないのだ。
好きにしろと言われても足枷がある限り、テンジには居場所を把握されている。
だからこうして唐突に目の前に現れては、遊戯をせがんでくるのだ。
「それに遊んだら名前を取るでしょ。私、みすみす自分の記憶をあげる気ないから」
「みすみ…?」
「容易に、とか簡単に、とか。とにかくそんなところ」
「ところ…」
「いや、ところは注目するとこ違うけど…いいや、もうそれで」
蛍が話す度にテンジは興味深く耳を傾ける。
それでも知らない単語は多く、こてんこてんと頸を左右に傾け続けた。
そうして見れば容姿も相俟って愛らしい少年に見えなくもない。
伊之助を更に幼くすれば、こんな顔立ちなのだろうか。
(そこから筋肉と獣感を百引かなきゃだけど)
それでも天と地の差は計り知れない。