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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



 よくよく見れば、簪は玉と宝石で一つではない。
 宝石はどうやら意図的に結び付けられている。
 人の手を加えれば外すことも可能なそれに、実弥は目をつけた。


「煉獄。この石の方を借りてもいいか」

「何か考えがあるのか?」

「俺達があれこれ思考を巡らせるより、直接本人に訊くのが手っ取り早い」


 糸を外せば、掌にころりと転がる宝石。
 実弥が親指で弾けば、宙へと回転して飛び上がる。
 同時にピュイと小さく慣らした呼び笛は、見計らったかのように爽籟を呼び寄せ、宙に浮かんだ宝石を攫った。
 何気ない動作だが、前もって指示していなければ取り零してしまうような圧巻の素早さだ。


「頼んだぜェ爽籟」

「成程。君の鴉なら、宇髄の処まで一日とかかるまい」


 "爽籟"とは、秋風の響きを表す言葉だ。
 その名の通り、実弥に仕える爽籟は風柱の鎹鴉として恥じぬ速さを持ち得ていた。

 天元と最後に別れたのは、とある花街。
 まだ其処に彼が滞在しているなら、爽籟の羽根で一日とかからず情報を伝えることができるだろう。


「しかし文の一つも持たせずよかったのか?」

「その時間が勿体ねェだろォ。それに"俺"の伝達はいつもこうだ。お前なら知ってんだろ」


 読むことはできても、書くことはできない。
 手紙に言葉を綴ることができない実弥の鎹鴉を使った伝達は、ほとんどが口頭だった。
 常日頃から傍で実弥の意思を汲み取り、理解している爽籟だから成せる行為である。
 ずっと様子を見ていた爽籟なら、実弥の思いと考えを今回もしかと伝えてくれるだろう。


「それより問題はこれだ。宇髄の答えを待つにしろ、お前の親父さんが鬼の一部を所有していたのは事実。そして煉獄、お前の反応もなァ」


 残った簪を手に、実弥は改めて杏寿郎をその目に映した。


「俺の知っている煉獄なら鬼の一匹や二匹、目の前にしただけで顔色なんざ変えねェはずだ。そいつが髪が燃えただけで動揺しやがった。…つまりこいつは、煉獄家に何かしら関りがある鬼ってことだァ」

「もしや、だから千寿郎も…?」

「そう考えると辻褄は合う。外部ばかり目を向けていたが、狙いは案外内部に絡んでるのかもしれねェぜ」

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