第25章 灰色万華鏡✔
「? 俺は本気ですが…」
「…あそこまで断言しておいて、忘れたとでも言うのか」
不思議そうに頸を傾げる杏寿郎に対し、槇寿郎の反応は呆れたものだった。
「ふん。所詮お前の心などその程度か」
冷たい物言いで告げる槇寿郎に、そわりと杏寿郎の心が揺れる。
理由はわからない。
しかしここで認めてしまってはいけない気がした。
それでは、あそこまで頑(かたく)なに主張し続けた意味がなくなってしまう。
(主張?)
一体何を父に主張したというのか。
わからない。
なのに心がざわつく。
「これ以上、お前と話すことはない。さっさと出ていけ」
「…待って下さい」
背を向ける槇寿郎へと、気付けば足を踏み出していた。
「父上は、俺の記憶にない何かを知っているのでしょうか」
「説明するとでも思うか。そんな愚問を吐くくらいなら、神隠しの鬼とやらを追っていろ」
「ッ待って下さい」
何故かはわからない。
それでも心が逸る。
ここで退くのは絶対にならないと、危機感のようなものを覚えた。
「では問いません。代わりに、その鬼の髪をよく見せて下さい」
「ならん」
「お願いします」
「駄目だ」
「一度だけでいいんです」
「ならんと言ったらならん!」
「何故ですかッ?」
いつもなら、槇寿郎の罵声に抗うことなどしなかった。
しかし頑なに見せようとしない髪房に、気付けば杏寿郎も声を上げていた。
「鬼ならば俺にも関与することです。見せて下さい!」
「見せたところでどうにもならん! どうせそのうち朽ち果てる!」
「なら何故父上は朽ち果てる鬼の一部を所有しているのですかッその鬼の行く末を気にかけているからではないのですかッ?」
「それはお前だろう!」
怒鳴って自ら、槇寿郎ははっとしたように口を噤んだ。
(俺が、鬼の行く末を気にしている?)
言葉の意味は理解している。
それでも杏寿郎の頭は、半分しか物事を理解できなかった。
鬼の辿り着くところなど、全ては斬首のみ。死のみだ。
決まっている事柄を、何故気にする必要がある。