第25章 灰色万華鏡✔
「これは鬼の髪だ。人間のものではない」
「鬼の…っ? 何故そんなものを」
「お前には関係ないと言ったはずだ」
「…大方、生死を見定める為だろうよォ」
冷たく突き放す槇寿郎に代わり、実弥が後方から冷静な判断を下す。
鬼は死ねば、細胞一つ残さず消滅してしまう。
取り逃がした鬼の身体の一部でその生死の状況を判断したことは、実弥にも経験があった。
わざわざ鬼の一部を所有しているとなれば、考えられるのはそんなところだ。
「もしやその鬼が、この村に血鬼術をかけている者だと…?」
「そんなことは知らん。…だが恐らく違う。関係ないことだと言っているだろう」
「相手が鬼となれば、鬼殺隊である俺達にも関係あることです。無視はできねェ」
「不死川の言う通りです。その鬼が神隠しの正体でなくとも、なんらかの足掛かりになるかもしれない」
鬼殺隊を放棄した父が、何故鬼の一部を手にしているのか。
疑問は抱いたが、父も目の前に悪鬼が出現すれば成すべきことは心得ているはずだ。
迷いなくそう思えたからこそ、杏寿郎は別の疑問を抱いた。
「何故父上は、その鬼を見逃したのですか」
生け捕りならまだしも、取り逃がしたなど。
元柱である父を思えば、考えられないことだ。
「お前がそれを言うのか?」
「…はい?」
しかし問いに返されたのは、思いもしない答えだった。
「鬼でありながら生かしておいたのは、お前自身だろう」
「…なんの話ですか…?」
鬼を生かしておいたなどと。
炭治郎の妹である禰豆子ならば確かに見逃しているが、それを父は知らないはずだ。
そして禰豆子と共に行動している炭治郎は、現時点では蝶屋敷で治療と修行の身。
煉獄家に触れる要素などどこにもない。
「悪鬼は滅すべき存在です。それをわかっていながら生かすなどと考えられません」
真っ直ぐに目を見て告げれば、槇寿郎の双眸が確かに驚きの色を浮かべた。
「お前…」
杏寿郎のその曇りなき眼を、槇寿郎は数日前にも見たことがあった。
ただしあの時は、
「本気で言っているのか…?」
鬼を庇いながら、見せていたものだ。