第25章 灰色万華鏡✔
明確な答えは見つからず、疑問だけが実弥の中に残っていた。
なんの為に、というよりも、誰の為に。
鬼の蔓延る時間帯に、この屋敷を抜け出そうとしたのか。
そんな不明瞭な感情が、腹の底に残っているかのようだ。
「とにかく鬼だ。それを見つけ出し滅しさえすれば、この奇妙な感覚も無くなるのだと思う」
「つまり、お前も神隠しの類の血鬼術に惑わされてるってことかァ?」
「うむ…情けない話だが。この村全体が術にかかっているのなら、千寿郎の様子が可笑しいことも頷ける」
「…気付いてたのか」
「無論。帰省している間は、俺との時間を大切にしてくれていた。その千寿郎が他の何かに気を取られていることくらい、見ればすぐにわかる」
それでも触れないでいるのは、やはり杏寿郎の中にも不明瞭な感情があるからだろう。
それを明確にする為には、鬼を見つけ出すこと。
実弥もその考えには同意だった。
「おい煉獄。鬼を見つけ出す為に、誰かの手を借りるつってただろォ。誰だァそいつは」
「…そんなことを言ったか?」
「言っただろォが。蛇の道は蛇、みてェな言い訳つけて」
「ふむ…?」
目には目を、歯には歯を。
そんな例えで、以前話していたように思う。
問う実弥に、心当たりはないのか。
己の顎に手をかけて、杏寿郎は頸を傾げた。
「…父上か?」
「さァな。俺に訊くんじゃねェ」
「ふむ…この村で一番鬼への知識が長けているのは、やはり父しか考えられない。…父上だな。早速尋ねに行こう」
「話なんざ聞くかァ? あの親父さんが」
「鬼のことなら、父上も無視はできないはずだ。それに反応が貰えないなら貰えないで、頼るべきは父上ではなかったという答えは出る」
「お前…本当、前向きが服着て歩いてる奴だなァ…」
「ははは! ありがとう!」
豪快に声を上げて笑いながらも、杏寿郎の目は既に目的の部屋へと向いていた。
昨夜も鬼の痕跡は見つからなかった。
今日こそは、僅かな欠片でもいい。手掛かりを掴まなければならない。
気持ちだけは急げと逸る。
早くしないと、何か。
大切なものを失くしてしまう。
実弥と共に槇寿郎の部屋へと向かいながら、急かす心のままに足を速めた。
この焦燥は村の人々を思うが故だと、そう言い聞かせて。