第25章 灰色万華鏡✔
「にしてもお前、随分活きが良くなったじゃねぇか。…いや、菊葉の毒盛りのことを盗み聞きした時も、そんな態度取ってやがったな」
「ッ…」
「そいつが本来のお前の顔って訳か。生意気な目は昔っから変わってねぇ」
身動きの取れなくなった蛍に、安全だと踏んだのか。顔を近付けて、しげしげと眺めながら与助が笑う。
「だからお前のことは目ぇ付けてたんだよ。前からな。生意気な奴程、その根性をへし折った時の気持ちよさと言ったらありゃしねぇ」
「ッ…ッ!」
「へへ、いいねぇ。化け物になってもお前はお前のままでいてくれてよ」
声は聞けなくとも、罵声されているのはわかる。
噛み付くように身を乗り出そうとする蛍を面白そうに眺めながら、与助は徐に手を伸ばした。
触れたのは、簪を失くし下ろされたままの蛍の髪。
槇寿郎の手によりざんばらに切られたはずの髪の毛も、既に元の長さに戻っていた。
「安心しろ、お前の名前は取らないでいてやる。数少ない昔ながらの顔馴染みなんだ、忘れられちまったら哀しいだろ?」
掬うように掌で受けて、さらりと梳く。
柔らかな髪を一房口元へと手繰り寄せると、恭しい仕草で与助はそこに口付けた。
「化け物となりゃあ売り物にならねぇしな…そこも安心しな。オレが責任持って面倒見てやるからよ」
「ッ!」
徐に優しく触れていた髪を鷲掴む。
乱暴に引かれて、蛍の顔が前のめりに俯いた。
衝撃に歪む蛍の顔に、与助の目色が変わる。
「此処にゃあオレ達しかいねぇんだ。退屈しないように相手を頼むぜ」
舐めるような、色欲に満ちた視線。
苦々しく睨み返しながらも、蛍の肌は粟立ち戦慄していた。
「なぁ、柚霧」
形は違えど。
狭い水槽の中でしか生きられなかった、金魚に戻ったような気がして。