第25章 灰色万華鏡✔
皆まで訊かずとも理解してしまった。
従順であっても、反応の浅い女を男達は長くは好まない。
多少噛み付くくらいが、面白味もあると狂気の沙汰のような顔で笑うのだ。
そういう世界を知っていたから。
「まさか…身売りさせるつもり…?」
「自分を知らない女は足も付き難い。そんな都合の良い売り物なんて他にねぇだろ?」
「ッ下衆が…!」
月房屋を辞めても、与助のやっていることは何も変わっていなかった。
否。鬼の術を使っている分、以前にも増して節操がなくなり性質が悪い。
自分や松風や花街の女だけでは飽き足らず、一歩も踏み込んだことのない八重美さえも、その道に染めようとしているのだ。
怒りで鷲掴んだ拘束触手の束に、びきりと亀裂が入った。
「おいテンジ、化け物が逃げ出すぞ。しっかり押さえてろ」
「…ぅ」
「テンジ! 言うこと聞けねぇなら血ィ見せるぞ!!」
「っち、いや…ち、こわい…っ」
「ならさっさとやることやれ!!」
「っ!?」
体を縮ませながらもテンジが両手を蛍へと翳せば、触手の束が太くなる。
口元にも無数の手が被さり、声一つ漏らせないようにと押さえ込んだ。
「んぐ…ッんん!」
「ったく。見たとこ、結構な怪我してたみたいじゃねぇか。折角治ったんだ、また手負いになりたくねぇだろ」
「っ?」
与助に言われて気付く。
そういえば重度の火傷を負った痛みはいつの間にか消えていた。
陽光に炙られた火傷跡は再生が遅くなる。
本来なら全回復はまだ先だ。
それでも感覚で理解できた。
包帯の巻かれた皮膚の下に、痛みはない。
それはこの世界が、何か関係しているのか。
(となれば、やっぱり此処は現実世界じゃない?)
空に浮かぶ家々に辿り着けたとしても、其処に住まう人間達はいないのか。
そもそも、何故テンジはここまで与助の言いなりになっているのか。
鬼と人間ならば、例え子供と大人であっても力の逆転は容易にできる。
そもそも此処はテンジの世界。
彼の好きにできるはずなのに。
血を見るとはなんだ。
鬼にとっては餌となる血で釣り、言いなりにさせているのとは何か違う感じがする。
蛍は口を押さえ込む掌の下で、小さく呻った。
答えが出ない疑問ばかりで、頭が上手く回らない。