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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



「八重美さん…? 八重美さん、しっかりしてッ」

「無駄無駄。他人の声なんか届かねェよ」

「でもさっきは確かに…っ」

「反応したってか? そりゃあ…お前が何か、あの女の根本にあるものに触れたからだろうなァ」

(根本…?)

「だとしてもそれも一時的なモンだ。名前を取られちまったら、必ず皆ああなっちまう」


 テンジの遊戯に負けると名を取られる。
 そう助言してくれた八重美の瞳は、確かにはっきりしていた。
 しかし今は、どんよりと濁りを持ち生気を薄めている。
 それが名を取られた者の末路なのか。


「そういう女は扱い易い。大概の言うことは聞くし、だからといって馬鹿の一つ覚えみたいにハイハイ従順な訳でもない。それがどういう意味を持つかわかるか?」

「…?」

「わかんねぇだろうなァ。お前にゃァよ」


 静かに語り始めたかと言えば、真意の掴めないことを言う。
 睨み付けたまま疑問を目で問う蛍に、与助はそら見ろと呆れて溜息をついた。


「だからお前は女郎失格なんだ。柚霧」

「どういう…」


 意味か。
 問いかけ終える前に、蛍は息を止めた。

 ぞわりと背筋が粟立つ。
 身体の隅から隅まで舐められているかのような視線を感じて寒気がした。

 あの目は知っている。
 欲に溺れた者しか持たない、あの目は。


「そういう女を抱きたいんだよ。世の男ってのは」


 捕食する者が持つ目だ。

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