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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



 てんじのおうちだと少年は何度も言っていた。
 それが真実ならば、この世界を家として、主となるのはあの少年だ。


「テンジ。いいか、こいつだけは何があっても離すなよ。じゃなきゃオレが殺されちまわァな」

「ぅ…ん…てんじ。いいこ」

「そうだなァ。お前はオレの言うことをよーく聞くいい子だ」

「その…子は、なんなの…なんであんたなんかと一緒に…」

「なんだァ? お前、わかんねぇのかよ?」


 こくりと頷く少年に歩み寄り、雑な手つきで頭を撫でる。
 父と子としては不釣り合いな二人に蛍が疑問を持てば、与助は呆れたように呟いた。


「同じ化け物だってのによ」


 化け物という言葉は比喩でしかない。
 与助は、蛍が既に人間ではないことを知っている。

 ならば。


(あの子も鬼…!?)


 蛍の緋色の瞳が少年を凝視する。


「そんなに睨むなよ。怖がっちまうだろ」

「なんで人間のあんたが鬼を…ッ」

「鬼? おいおい、そんな物騒な名で呼ぶなよ。こいつにはテンジって名前があるんだ」


 わしゃりと少年の頭を撫で付け告げる与助に、鳥肌が立つ。
 化け物呼ばわりした口が何を言う、と。


「オレが拾って名前を付けた。テンジってのは、子妖怪の天子(てんじ)ってぇ名前から取ったんだ。人間の子供を攫(さら)う、悪戯好きの妖怪だ。ぴったりだろ?」

「…てんじ。いいこ」

「ああそうだ、お前はいい子だな。わかってる」

「ッ…ふざけてる」


 妖怪の名を付けるなど。

 そんな蛍の気迫も、少年──テンジには理解できないのか、伝わっていない。
 与助の顔色ばかり伺っているように見えた。


「ただテンジも遊び盛りの子供だからなァ。すぐに遊戯に没頭しちまう。こいつに負ければ、名を取られる。本名ってのは、その者を表す言霊みたいなもんだ。取られれば己を失くしちまう」


 与助の目が蛍の後方へと移る。


「そこの女みたいにな」


 蹲るように座り込んでいた八重美が、静かに体を震わせた。


「何を他人事みたいに…ッあんたは八重美さんの髪飾りを持っていた。あの時既に、あんたが八重美さんを攫ったんでしょ…!」

「あの時?…ああ、"あの時"か」


 一度目の駒澤村での接触。
 それを与助も憶えていたようだ。

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