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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



 踏ん張り耐える蛍の足元が、ぐらりと揺らぐ。
 己の影で覆っているものの、その下にあるのは藍色の世界。
 己が立つこの世界は全て、少年の配下にあるのだ。


(駄目だ…ッ地の利はあっちにある…!)


 例え力で勝っても、分は少年にある。
 二度目の薙ぎ払いに耐えていれば、足元への意識が薄れた所為か。


「──!?」


 影を突き破るようにして、足元から飛び出してきた金色の手に脚を掴まれてしまった。


「しま…っ」


 謎の手に捕えられれば、名前を取られてしまうのか。答えのない恐怖に顔が引き攣る。
 その隙を突いたかのように、次々と影を突き破る手が蛍の下半身に群がった。


「きゃあッ蛍さ…!?」


 咄嗟に蛍が行動を起こしたのは、腕の中の八重美を放ることだった。
 地面へと倒れ込んだ八重美が、驚き見上げたのは無数の手に掴みかかられる蛍の姿。

 脚に、腕に、頸に。


「く…ッ」


 蛇のように絡み付き握り掴む手に、蛍の四肢は拘束されてしまった。


「ほたるっ」


 蛍にしか操れない影が、ぎちぎちと引き千切られ悲鳴を上げる。
 影の壁を握り潰し、毟り取り、道を作る無数の触手。
 その奥から、少年の足音が聞こえた。


「みぃつけた!」


 ひょこりと顔を出し、爛々と輝く目でこちらを見ている。
 それだけなら遊びに夢中な子供にしか見えない。


「ひ…っ」


 しかしその無邪気さが、八重美に戦慄を走らせた。

 無数の手に雁字搦めに押さえ付けられている蛍を見ても、笑顔のまま。
 それが異様なものとは微塵も思わない様子で、少年の手が蛍へと伸びる。


「蛍さん…ッ!」

「ほたる、つかまえたーっ♪」


 八重美の悲鳴のような声と、少年の弾む声が交差する。
 小さな紅葉の手が、蛍の胸に触れる──間際だった。


「テンジィッ!!!」


 急な怒号に、びくりと少年の動きが止まる。

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