第25章 灰色万華鏡✔
「あ…見つかっちゃった」
このまま捕まってしまえば、遊びは終わってしまう。
それでもいいかと思えた。
捜し人である八重美を見つけ出したのだ。
遊んでいる場合ではない。
事態の解決策を見つけ出さなければ。
「ねぇ、君──…っ?」
少年へと振り返る蛍の体が、急にぐらりと背後に傾いた。
「…ッ」
「八重美、さん?」
蛍の腕を強く引いていたのは八重美だった。
己の方へと手繰り寄せ、その顔は恐怖に引き攣っている。
「蛍さん…その子と遊んでいるのですか…っ?」
「え? はい。鬼ごっこをしたいって言われて」
「受けたのですか? 遊んでもいいと、言ったのですか」
「う…うん」
先程までのか細い声が嘘のように、八重美の声が緊張で張る。
その剣幕に気圧されながらも頷けば、途端に声が轟いた。
「そんな…っいけません!」
「え」
「ほたる、みつけたー」
「っ逃げて下さい! 捕まっては駄目です!」
「な、なんで…っ?」
駆け寄る少年から遠ざけるように、蛍の腕を渾身の力で引く。
八重美の切羽詰まった空気に、感化されるように蛍も動揺した。
「その子に捕まると取られてしまう…!」
「取られる…っ?」
「私はその子に取られたのです…ッ自分の名前を!」
「…なまえ…」
復唱は一度だけでよかった。
先程感じていた少年の違和感への答えが、そこにあったからだ。
(まさか…蛍の蛍を貰うって…)
蛍の名を貰うと、そう言っていたのか。
人の名前は、本来ならば奪うことはできない。
ただ一つ、目の前にいる八重美がその常識を覆していた。
本来の名を教えても、彼女自身が己の名だと理解していない。
記憶の中から〝伊武八重美〟を丸ごと削り取られている。
「じゃあ、あの子が」
無邪気に両手を突き出して駆けてくる少年を、凝視する。
八重美の言うことが本当ならば、あの少年こそが記憶を操っている鬼なのか。
「神隠しの原因…っ?」