第7章 柱《参》✔
「蛍ちゃんのお陰ね」
「何が?」
「冨岡さんって、いっつも"俺はお前達とは違う"って言って、私達から距離を置いてた人なの。でも蛍ちゃんの監視をするようになってから、私達とも一緒に過ごしてくれるようになったのよね」
そう…なの?
そういえば前に杏寿郎も、義勇さんのこと馴れ合わない奴だって言ってたような…確かにそんな感じはするけど。
私もまだ全然、義勇さんのことは計り知れない。
腹の底で何を考えているのか、わからないことも多い。
だけど…どうしてかな。
普段はあんまり喋らないけれど、何かを伝えようとする時はいつも真っ直ぐに向き合ってくれている気がする。
私が鬼だとか、女だとか、彼が鬼殺隊だとか、柱だとか、そういう枠組みなんて見ずに。
確かに取っ付き難い人だけど、それだけでは括(くく)れない感じがする。
だから、なのかな…最近は監視で傍にいても、その役目が重苦しく感じないようになったのは。
…ただ、
「そんな、大袈裟だよ。義勇さんは楽しんでる訳じゃないみたいだし…仕方なく参加してるだけだから」
「あら。それでも、それが"きっかけ"になるんだから。素敵なことだと私は思うなぁ」
「そう、かな…」
「きっとそうよ」
「いつまで話し込んでるんだ。進まないぞ」
義勇さんの呼び掛けに蜜璃ちゃんとの話が中断する。
ぱちんと一つ片目を瞑って綺麗に笑うと、蜜璃ちゃんは大量のあんこへと向かってしまった。
仕方なしにと私も大量の餅米と向き合う。
とりあえず今はこの課題をどうにかしないと。
「とりあえず蛍ちゃんは冨岡さんとお米を洗って炊いてくれる? 私はあんこときなこと、他の味付けの用意をするから」
「うん」
「……」
「義勇さんは私の手伝いをお願いします」
無言でこくりと頷く義勇さんをお供に、気合を入れる為に袖を捲る。
炊事は久しぶりだけど、姉さんが病気になってからは毎日私が作っていたし。人並みなことくらいなら一通りはできるつもり。
おはぎ作りなんてしたことないけど、実物は食べたことがあるからなんとなくわかる。
多分そんなに凝った作りは必要ないだろうから、初めてでもそれなりにはできるはず。
さぁ、あの大量のあんこがかぴかぴに乾く前に、百個のおはぎを作り上げないと。