第7章 柱《参》✔
「じゃあ冨岡さんにもっハイこれ!」
「…遠慮しておく」
あ。すると今度は今まで黙ってついて来ていた義勇さんに、蜜璃ちゃんの手が伸びた。
「ダメよっ料理をするんだから汚れてしまうし、食材を扱うから清潔にしていないと! ハイこれっ」
「っ…俺は作るとは言ってない」
「でも冨岡さんも罰則組でしょ?」
わ、蜜璃ちゃんに義勇さんが押されてる。
蜜璃ちゃんの言うことも真っ当だから、義勇さんも下手に反論できないんだろうな。
事を見守っていたら、蜜璃ちゃんに加勢を求める視線を向けられたので私も声を掛けることにした。
あのお泊まり会から、多少なりともこの人に言葉を向けられるようには、なった気がする。
「私と蜜璃ちゃんだけじゃ一晩中かかってしまうから…手伝ってもらってもいい?」
「……」
「隊服がおはぎ塗れになるよりは、割烹着を着ていた方が、いいと思う…けど」
言葉を選んで告げれば、いつものように無言で返される。
だけどその耳は言葉を拾っていない訳じゃない。
その証拠に、やがて諦めの溜息をついて義勇さんの手が差し出した割烹着を握ったから。
少しずつだけど、話すようになってわかったこと。
義勇さんはとにかく言葉が足りない。
饒舌な時もあるけど、そうじゃない時は大事な言葉が欠けていたりする。
だから私も最初は拒絶されてると勘違いしてたけど…よくよく見れば、そうじゃなかったことに気付いた。
義勇さんと向き合うには、きっと根気が必要なんだろうな。
でもその根気を見せれば、こうして応えてもらえることもあるから。
そんな時はちょっぴり嬉しい。
「ありがとう」
「俺はあくまで補佐だ。大筋はお前達に任せる」
「うん」
それでもこうして参加してくれてるだけ感謝かな。
あのおっかな柱に会いに行くのに、蜜璃ちゃんと二人だけじゃ心細いし。
割烹着に袖を通す義勇さんを見ていれば、隣でくすくすと蜜璃ちゃんが笑う声がした。
見れば、口元に手を当ててなんとも嬉しそうに笑っている。
なんだろう?