第25章 灰色万華鏡✔
「じゃあ…世界が可笑しくなったんじゃなくて…私、が…?」
空に立っている自分が可笑しくなっているのか。
此処は現実世界のまま、自分だけが異端となっているのか。
問題視すべきは世界か、それとも己か。
答えの見えない自問自答に、混乱だけが脳内を叩く。
「ほたる…ほたる…?」
食い入るように再び空という名の家並みを見上げる蛍を、少年が呼ぶ。
その声すらも耳に入らない。
あるはずだった土を、水を、家を、見上げ続けた。
(…あ、れ)
そして気付いた。
知っている。
見たことがある。
あの道も、その小川も、どの家も。
はっきりとは記憶になくとも、全くの未知の世界ではない。
微かな憶えがあった。
(なんで…私は、知っている? 何処で見た?)
混乱しか行き交っていなかった頭を、必死に回す。
考えろ。
記憶を辿れ。
(思い出せ…っ)
自然と足は駆け出していた。
「ほ…ほたる…っ?」
空を見上げたままふらふらと駆け出す蛍を、少年が追う。
それでも蛍は振り返らない。
小川から離れ、家並みの中へと進む。
頸が軋む程に空を見上げたまま、閑静な家々を辿っていった。
(知って、いる。此処)
心が逸る。
(何度も、見た)
息が弾む。
(だって、此処は──)
並ぶ家並みの中を突き進み、角を曲がれば突如と見える。
長々と続く屋敷を守る為の塀。
それは。
「煉獄屋敷…!」
何度もその塀を沿って歩いた。
隣で並んで歩む、彼らと共に。
中庭を飾る大きな松の木も、重厚な瓦屋根も、立派な長屋門も。全てが鮮明に蛍の脳裏を彩った。
その家こそ、何に代えても帰りたいと願った場所だ。