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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



 少年は、整った顔立ちをしていた。
 肩まで伸びた黒髪が、少年だというのに少女のような愛らしさも惹き立てている。
 どことなく、霞柱の無一郎を幼くすれば、こんな容姿ではないかと思えるような。


(時透くんに愛嬌を百足せばこうなるかな)


 ただし、雰囲気には天と地の差がある。


「ほたる」

「え?」

「ほたる。ほたる」


 先に呼びかけたのは少年の方だった。
 蛍を指差し、何度もその名を告げる。
 まるでお気に入りの言葉を口にしているかのように、弾む表情で。


「私のこと、知ってるの?」

「ほたる!」

「う、うん。私は蛍だけど…君は、」

「あそぼ。ほたる」

「え?」

「おにごっこ」


 鬼という単語に一瞬意識は止まったが、少年は意図して口にした訳ではないようだ。
 にこにこと笑いながら、鬼ごっこをしようと誘ってくる。
 その様は、ただの無邪気な幼い子供だ。


「それ、より…此処は? 君、此処が何処だか知ってる?」


 此処が見慣れた場所ならば、鬼ごっこにだってつき合った。
 しかし右も左も知らない未知の世界なのだ。
 この場に存在する少年もまた、蛍にとっては謎の塊である。
 安易に触れていいのかすらわからない。


「こ、こ?」

「此処。この世界。ここ全部」


 両手を広げて告げれば、きょとんと頸を傾げた少年が真似るように両手を広げた。


「ここ! てん、じ。おうち!」

「てんじ…おうち?」

「おうち! てんじ!」

「おうち…てんじ?」

「んー!」

「いやごめん。わかってない」


 こくこくと満足そうに頷く少年に、間髪入れず突っ込んでしまう。
 どうにも意思疎通が取り難い。
 少年は答えを告げているようだが、いまいち理解できない。


「家の展示ってこと?…絶対違うな…」

「てんじ! おうち!」

「え、いや…あの」

「おうち!!」

「わ、わかった。おうちね。家、ね。成程(いや全然成程じゃない!)」


 頬を膨らませて何度も「おうち」と告げる少年に、取り繕うように笑ってみせる。
 ただし内心は疑問だらけだ。

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