第25章 灰色万華鏡✔
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──カシャンと、
零れ落ちるような音がした。
「…っ…?」
薄らと目を開く。
暗転した世界から呼び戻されるように、蛍は意識を起こした。
眠りから覚めるような、はたまた急激に覚醒するような、そんな目覚めではない。
気付けば其処にいた。
地べたにうつ伏せに倒れ込んでいるというのに、包帯を巻いた頬も腕も痛みはない。
(ここ、は…?)
一度目を閉じて、もう一度開く。
視界の隅がきらきらと何かで煌めている。
包帯の隙間から覗く右目だけでは全貌を捉えられない。
体を起こす為にと包帯の両手を地面につけば、やはり痛みは感じなかった。
ゆっくりと身を起こす。
上半身を起こしてようやく、視界を煌めいていたものがなんなのか理解した。
「…なに…これ」
否、理解はできなかった。
両手をついて見下ろす地面は、蛍の知る地面ではなかったからだ。
深い深い、海底のような底の見えない藍色。
種を蒔いたかのように、その至る所に散りばめられている金色の星屑。
きらきらと小さな光を放って、地面から蛍をほのかに照らしていた。
地面と呼ぶのも正しいのかわからない。
土の感触はなく、藍色の世界も一見すれば奈落に落ちていきそうな、言いようのない怖さがある。
煌めく星屑も、照らされはすれど触れることは叶わない。
「…っ」
足腰に力を入れて、踏ん張り立ち上がる。
正確な足場の見えない藍色の世界は平衡感覚を狂わせたが、ふらつきながらもどうにか立ち上がることができた。
右を見ても左を見ても、果てのない藍色が続いているだけ。
「どこ…ここ、」
それは蛍の知らない世界だった。