第7章 柱《参》✔
「大丈夫よ。蛍ちゃんも始めたらきっと楽しくなると思うから。さ、此処よ入って」
蜜璃ちゃんに促されるままに台所へと赴く。
其処には立派な竈や広い手洗い場が…多っ!
何あの黒々とした塊の山…まさかあれ全部あんこ?
おはぎを作るのに、あんなにあんこって必要だったっけ?
「蜜璃ちゃん…ちなみに、おはぎを一体何個作るおつもりですか」
「え? そうね…ざっと百個くらいかしら」
「百個!?」
いくらなんでもそれは多過ぎじゃ…ああ蜜璃ちゃんだもんね。
その胃袋に合わせたら百個くらいにはなるもんね。
「あの…蜜璃ちゃんも、食べるつもり、なの?」
「え〜まさか! そんな意地汚いことしないわよ〜ちょっと味見するくらいで」
あ、やっぱり摘むつもりだったんだね。
それなら三桁あっても不思議じゃないかも。
「さ、そうと決まれば早速! これ蛍ちゃん用の割烹着ね♡」
「…これ割烹着なの?」
渡されたのはフリフリの装飾が肩や裾に付いた、面積の少ない白い割烹着。
背中とか丸出しだけど…割烹着の意味を成すの? これ。
「そうよ。最近若い女の子の間で流行りの割烹着なんだから! 可愛いでしょ?」
そう言って同じものをうきうきと身に付ける蜜璃ちゃんは…可愛い。確かに可愛い。
でもそれは蜜璃ちゃんだから、かなぁ…。
「私はそっちの割烹着でいいや。貸してくれるかな」
「え、これ? いいけど…」
壁に掛かっている見慣れた裾付きの全身を覆う割烹着を指差せば、しゅんと肩を落としながらも蜜璃ちゃんは貸してくれた。
「蛍ちゃんとお揃いで着たかったのになぁ…」
う。そんなことを言われると罪悪感が…でも義勇さんという第三者もいるし。
蜜璃ちゃんに全身諸々の要素で負けてしまう私が同じものを着て並ぶのは、ちょっと哀しいというか…勇気がいるというか…。
「お揃いは、また今度別のものでしたいかな。台所で料理する時とは、別の時に」
「そお?…そう、ね。じゃあそうしましょ!」
よかった。
蜜璃ちゃんに笑顔が戻ったことと、フリフリの割烹着から逃れられたことにほっとする。