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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



 鴉の名は政宗という。
 夜に煉獄家を飛び出した千寿郎を、杏寿郎が見つけ出した時に共にいた鴉だ。
 人語を話す為、鬼殺隊に属する鎹鴉なのはわかる。
 しかしどの隊士に仕えているのか、政宗自身がわからない様子だった。

 口数少なく大人しくしているものの、何故か杏寿郎と千寿郎から離れようとしない。
 杏寿郎が理由を尋ねれば「連レテ行ク為」とだけ答えた。
 肝心の連れて行く先は、政宗自身も答えられない様子で。

 鬼捜しの最中に、迷い込んだ忘れ鴉が一羽。
 なんとも面倒な話である。


「しかしあの消沈具合を見ると、よもや主は…」


 不意に語尾を濁らせる杏寿郎の示唆するところは、実弥にも理解できた。
 鬼殺隊は、明日をも知れぬ身なのだ。

 鴉は賢い生き物である。
 仕えた隊士の死を認めたくないが為に、過去と未来の記憶を混濁させる弱い鴉もいるという。


「鬼殺隊にゃ切っても切れねェもんだ。それを受け入れられねェようなら、鎹鴉なんざさっさと辞めるべきだなァ」


 冷たくも思える実弥の言葉に、千寿郎の眉が尚も下がる。
 はたとその目が捉えたのは、ぽつんと一羽でいた政宗に寄り添う二羽の鴉。


「あれって、要と…」

「確か名は…素麺だったか!」

「爽籟(そうらい)だ食い物にすんじゃねェ!」

「すまん! 爽籟か!」


 炎柱に就く鎹鴉の要と、風柱に就く鎹鴉の爽籟。
 兄に対する実弥渾身の突っ込みに千寿郎は苦笑しつつも、主達とは正反対に寄り添い合う優しい鴉達にほっと胸を撫で下ろした。


「兄上。政宗が元気になるまでは、我が家に置いておいてもいいでしょうか」

「ああ。鴉の一羽や二羽、問題にもならない。俺も目をかけることとしよう」

「ありがとうございます。…あ、そういえば」

「む?」

「兄上、母上の衣類を持ち出したりしましたか?」

「母上の? いいや。何故だ?」

「小物も含めて、幾つか使用されていたみたいなので。兄上が任務で必要としたりしたのかなと…」


 ふと思い出したように問う千寿郎に、腕を組んでふぅむと杏寿郎も頸を傾げる。

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