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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第25章 灰色万華鏡✔



「飲み物とおしぼりです」

「うむ、ありがとう!」

「それにしても…また随分と、激しい稽古をされたんですね…」

「すまん! 壊れた木刀と破れた胴着は、俺が新調しておく!」

「壊した木刀と、破いた胴着なァ」

「そうだな、俺達の所為だ! 悪かった!」

「悪いなァ千寿郎。俺からも謝るわ」

「い、いえ。それだけお二人の実力が確かなものだという証明ですから…っ」


 無垢な少年に頭を下げる実弥の素直な謝罪は、彼を知っている鬼殺隊の隠や隊士達からすれば珍しい姿なのかもしれない。
 それを知らない千寿郎も、わたわたと顔の前で手を横に振る。
 最初に出会った頃に比べて縮まったようにも見える二人の関係性に、杏寿郎は自然と口角を緩めていた。


「お湯の準備もできていますので、お二人共夕餉の前に汗を流してください」

「世話かけるなァ」

「私にできることはこれくらいなので…」


 千寿郎が怪我を負ったとの報告を手紙で受け、それを玄弥と勘違いした為に煉獄家の戸を跨いだ。
 勘違い故の無駄足かと思ったが、よくよく話を聞けばこの地で神隠しのような出来事が起こっているらしい。
 その原因が鬼である可能性は高い。
 故に正体を突き止めるまで、実弥も駒澤村に留まることを決めたのだ。

 放っておけば、笑顔でおしぼりを差し出してくるこの千寿郎にも被害が及ぶ可能性がある。
 献身的な同胞の弟の姿に、それだけは回避しなければならないと強く思えた。


「不死川様、お茶もどうぞ」

「ああ…」

「?」

「…アイツ、まだいやがんのかァ」


 千寿郎から湯呑を受け取りながら、実弥が視線を向けた先は中庭。
 庭を飾る立派な松の木に停まる、一羽の鴉だった。
 その黒い鳥は、見慣れた柱の鴉ではない。


「ああ、政宗か。俺も面識はあるが、仕える主は知らなくてな。どうやら政宗自身も主がわからないようなんだ。なので一先ず手元に置いている」

「仕える相手を忘れるなんざ鎹鴉失格だなァ」

「…目に、怪我を負っていますし。もしかしたらその衝撃で、忘れてしまったのかもしれません」


 呆れたように呟く実弥に、小さな声で意見する千寿郎は鴉を庇っているのだろうか。
 今一度松の枝の鴉を見れば、黒い尾羽と頭を下げて項垂れているようにも見えた。

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