第24章 びゐどろの獣✔
──ぱさ、
地面に落ちる提灯。
二度目のそれに、千寿郎が慌てて「あ」と手を伸ばす。
着地が悪ければ、中の灯火が周りの和紙に燃え移ってしまう。
急いで拾い上げれば、幸いにも中の火をゆらりと揺らすだけで済んだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「兄上、灯りは無事です」
「…む?」
「え?」
報告をと兄を見上げれば、杏寿郎は呆然と立っていた。
何かを見つめるように空を見ていた瞳が、千寿郎を見下ろしきょとんと瞬く。
疑問符で返され、思わず疑問符でこちらも返した。
互いに頸を傾げる。
違和感。
「あの…兄上。何故、外に…?」
「何を言う。千寿郎を捜しに来たんだろう? 一人無断で家を出るんじゃない」
「ぁ…す、すみませんっ」
慌てて下げる千寿郎の頭に、優しく杏寿郎の掌が乗る。
「もういい。お前が無事なら。さあ、帰ろう。父上も待ち侘びている」
「はい」
「……」
「…兄上?」
「いや」
差し出した手を、小さな手が握る。
慣れ親しんだ弟の掌の温もりなのに、何故か妙な感覚を覚えた。
握りたかったのは、この温もりだっただろうか。
辺りを見渡す。
暗い路地。閑静な家並み。
何も可笑しなことはない、見慣れた我が家の近所だ。
「なんでもない。帰ろう」
「…兄上」
「ん?」
「父上は、怒っているでしょうか…」
「そうだな…しかし怒りを覚えるのは、それだけ千寿郎を気にかけているからだ。無頓着であれば感情も示さない。それは悪いことではないぞ」
その場には兄と弟の二人だけ。連れ立って歩く。
交わされる兄弟の会話は、いつもと変わらない。