第24章 びゐどろの獣✔
「しかしよく一人で家を飛び出したものだ。今まで何度父上に罵倒されようとも、そこまでには至らなかっただろう?…余程酷いことを言われたのか?」
「いえ、俺は大丈夫です。…俺は」
「?」
「ただ、どうしても許せないことが…あって。それだけは、譲ってはならないと、自分の中で決意をしたからで…」
「ほう。その譲れないこととは?」
「それが…その、よく、憶えていなくて」
「ははっそれだけ千寿郎の頭に血が上っていたのか。珍しいことだ!」
「め、面目ないです…」
「そんなことはない。確固たる意志を持てたことは、誇るべきことだ。思い出したらぜひ兄に教えてくれ」
「はい」
自信のない弟の声に、励ます兄の快活な声。
何も変わらない。
それはいつもの、ありふれた煉獄家の姿だった。
ただ一つ。
彩千代蛍という鬼の存在を、忽然と消して。