第7章 柱《参》✔
一見して炎柱のお屋敷と変わらない、立派な玄関の戸を潜る。
「ぉ、お邪魔します」
「わぁっ蛍ちゃん! おいでませ我が家へ!!」
其処で出迎えてくれたのは、可憐な撫子色を纏い、これまた可憐な笑顔を浮かべた蜜璃ちゃん。
ぶんぶんと大きく手を振って、全身で喜びを表現してくれている様が微笑ましい。可愛い。見ているだけで癒される。
「冨岡さんもようこそ! どうぞ上がって!」
「…邪魔する」
「さ、蛍ちゃんもっ」
だけどそのほんわかとした空気はそう長続きしない。
それは私の隣にいる義勇さんが原因。ではなく。
「材料はね、もう全部用意できているから。後は炊いて潰して捏(こ)ねて握って整えるだけ!」
「ごめんね蜜璃ちゃん。全部用意させてしまって」
「そんなことないわ。美味しいものを作るのに、苦労なんて感じないものっ」
玄関を上がり、廊下を進みながら満面の笑みの蜜璃ちゃんから事の経緯を聞く。
それだけでどんどんと気持ちは下がっていく。
そう、原因はこれ。
「とっても美味しいおはぎを作って、不死川さんを驚かせてあげましょうね!」
先日の怪談稽古(とか天元は言っていたけど、あれを稽古と私は認めない)で課せられた罰則。
その名も不死川おはぎ(不死川実弥というおっかない人物におはぎを持って突撃しに行くこと)だ。
杏寿郎の訓練も休みとなった、とある日曜の夜。
蜜璃ちゃんに誘われるまま、恋柱邸を私と義勇さんは共に伺った。
義勇さんがついているお陰か、私が他の柱の屋敷にお邪魔することになんのお咎めもなかった。
そういう意味では義勇さんが傍にいるのは何かと便利…げふん。都合が、いいのかもしれない。
「でもまさか一からおはぎを作るなんて…」
「折角だもの。不死川さんに愛情こもった美味しいおはぎを食べさせてあげたいでしょ?」
「…その愛情は蜜璃ちゃんだけで十分だと思う」
「そお?」
私からあのおっかな柱に向ける愛情なんて、米粒一つ分もありません。
本音は今すぐにでも逃げ出したい。
でも此処で逃げ出したら蜜璃ちゃんに罰則を背負わせてしまうことになるし、何より天元の目が怖い。
後で何処からともなく聞き付けて、より厄介な罰則を与えられそうな気がする。
それだけはごめんだ。