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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 今もそうだ。
 一人でいた時は、果たして杏寿郎が戻ってきてもどうにかなるのかと、不安を覚えていた。
 なのに今は一筋の光が差したようだ。


「らから、力になってくれる?」

「うむ! そもそも俺と蛍の問題だ。君一人が抱えるべきものではない」

「…千ふん、も」

「っはい! 勿論ですッ」


 意気込み頷く、二つの焔色の頭。
 彼らが傍にいてくれれば、踏ん張れる気がした。
 幾度己の存在を槇寿郎に否定されようとも、二人が己の存在を求めてくれるならば。


「さあ、帰ろう。なんであれ、父上も千寿郎のことを心配していた。安心させてあげなければ」

「父上、が…?」

「ああ。見つけ出すと家を飛び出そうとした程だ。俺が不死川と捜しに行くと、どうにか説き伏せた。万が一、千寿郎が一人で帰ってきた時に家が空ではいけないからな」

「…父上が…」


 心配されたことに驚きを隠せない千寿郎が、再度噛み締めるように呟く。
 その姿を、杏寿郎は穏やかな眼差しで見守った。

 当然だ。親なのだから。
 我が子の身を案じるのは。


「その不死川は? なんれ一緒じゃないの?」

「なに、手早く見つける為に二手に別れただけだ。要に呼び戻してもらおう」


 杏寿郎が見上げれば、事を見守っていたのか。高い夜空をゆっくりと旋回している黒い鳥が辛うじて見えた。
 片手を振る杏寿郎に、意図を汲み取って東の空へと逸れていく。


「蛍」


 なんともよくできた鎹鴉だと感心して見上げていれば、名を呼ばれた。
 目を向ければ、再び手を差し伸べられる。


「帰ろう」


 共に帰る場所だと、極自然に告げられる。
 それが軋み痛んだ心には、どんなに沁み入るものだろうか。


「…うん」


 焼けた肌の痛みなど消えてしまうような、あたたかな温もり。
 ただ傍に在るだけで力が湧いてくる。

 解決策は未だない。
 それでも、一度は槇寿郎と心を通わせることができた。
 ほんの一瞬であっても、真正面から向き合い、言葉を交わすことができたのだ。

 可能性は、無ではない。

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