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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 所有者は自分だと言われた。
 髪の毛一本も、声に至るまで。その命は自分のものだと。

 所有物のように告げる言葉は、月房屋の男達と似ているようでまるで違う。
 鋭い双眸の奥に再び見える、ちりちりと己の心を燃やすような炎。
 欲望を見せる時とは違う、しかし有無言わさない圧を持った炎は捕食者のそれと似ていた。

 その視線に囚われて、ぞくりと蛍の肌が粟立つ。
 嫌悪感ではない。
 高揚に近い感覚だった。


「蛍が悪鬼としての禁忌を犯したならば、俺の手でその頸を斬る。それまでは、誰であろうと"ここ"に刃を突き立てることはまかり通さない。絶対にだ」


 差し出していた手が、包帯を巻かれた蛍の細い頸に添えられる。
 急所に触れられ斬首を口にされているというのに、危機感は一つもなかった。


「父上にもそれを告げた。蛍もゆめゆめ忘れるな」


 説き伏せるような言葉ではあるが、語尾に圧はない。
 寧ろ優しく、首筋を手の甲で触れ撫でては離れる。


「──それに! 父上は煉獄家の戸を跨ぐことを許さないと言っていた。ならば納屋や道場を仮の寝屋にすればいい!」


 不意にくわりと杏寿郎の声が闊達さを増す。
 むんと胸を張り強い笑みを見せる様は、変わらないいつもの彼だ。


「父上を説得できるまで、俺も蛍と共に其処で過ごそう! それならばどうだっ?」


 余りの勢いに、思わずぽかんと見つめてしまっていた。
 ぱちりと丸めた目を瞬いて、蛍の口元が和らぐ。


「っふ…それは、多分まかり通らない気が…」

「!? よもや、そうかっ?」


 ただの屁理屈だとでも、槇寿郎に罵倒されてしまうだろう。
 なのに何故か。杏寿郎の一欠片も折れる様子のない姿に、蛍の緩んだ口元から笑みが零れ落ちた。


「れも、うん。私も…諦める気は、ないはら。その案に一票」

「! そうかッ」

「すぐには、認めへもらえないかもしれないけど…やれることはやりたい」


 求める世界は広がったが、いつもこの胸に熱い炎を灯させてくれるのは杏寿郎だった。
 彼が大丈夫だと笑えば、解決策が明確になくとも不思議と安心できた。

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