第24章 びゐどろの獣✔
「っ…俺が、悪いんです」
黙って事を見守っていた千寿郎が、耐え切れずに口を挟む。
「俺が、姉上に父上と一緒に食事を取られてはと薦めたから…」
その言葉だけでは内容は掴め兼ねたが、千寿郎の顔を見ればすぐに感情を拾えた。
普段は我慢強い千寿郎が、夜に一人で家を出て蛍を追ったのだ。
それだけで十分に千寿郎が背負う罪の意識は、図り取ることができた。
「千ふんは、悪くないよ…最初に案を出したのは私らひ…血鬼術の話をしたのも、私らから…」
「でも姉上が俺を守ろうとしてくれたからっだから父上の指示に従う他なくて…っ」
「千寿郎」
尚も声を荒げる千寿郎を、静かに杏寿郎が制する。
「お前のその目を見れば覚悟はわかる。だが一人無断で夜分に家を出るのは、死に等しい行為だ。お前が部屋にいないと知った時、父上も酷く焦燥していた。二度とするな」
「っ…」
「兄としてなら、俺も今回のお前の行動は許し難い。…だが男としてならば礼を言いたいと思う」
「兄…?」
「ありがとう。蛍を守ろうとしてくれて」
千寿郎の顔が歪む前に、杏寿郎は優しく微笑んだ。
問題は山積みだが、命あっての物種。
二人が無事であることが何よりだと。
「心配事は尽きないが一先ず家に帰ろう。特に蛍は、身体だけでなく心も休ませなければ」
さぁ、と手を差し出す杏寿郎に、ようやく蛍の顔が上がる。
しかしその瞳は不安定に揺らいだまま、頸を弱々しく横に振った。
「むりだよ…槇寿郎さんは、許ひてくれない…私は、戻れない」
「父上が許さずとも俺が許す。いや、俺が望んでいるんだ。あの家に帰ってきて欲しい」
「れも…槇寿郎さん、が…」
「あの家の主は、確かに父上だ。だが蛍の命だけは、俺が最後まで責任を持つとお館様に誓った。それだけは父上であっても奪い取ることはできない」
手を伸ばそうとしない蛍に、それでも杏寿郎は差し出した手を戻さなかった。
「蛍が〝鬼〟として生きる限り、その眼も、髪も、肌も、四肢も、声も。全ては現炎柱である俺の占有だ。何人(なんぴと)たりとも手を出すことは許さない」