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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「…っ」


 見開いた緋色の片目が揺れる。

 先程まで槇寿郎に頭ごなしに否定ばかりされていた所為か。
 多くを語らずとも、悪いことなどないと杏寿郎に迷わず告げられて、蛍は声を出せなくなった。


「詳細は知らないが、大方は把握している。すまない…父上が君に無礼を働いた。償っても償い切れない程の非礼だ」

「っ……そんな…ほと…」


 どうにか絞り出した声は、か細く消え入りそうなものだった。
 そんなことはない、とは言い切れずに。

 確かに槇寿郎の放った痛罵は、蛍の心に深く突き刺さった。
 刃のように突き刺さるだけでなく、感情を抉(えぐ)り毟(むし)り取った。


「…っ…きょ、じゅろ…」


 鬼であることを罵られるなど、慣れたもの。
 それであれば実弥など幾度も蛍の心を抉っただろう。

 それでも違うのだ。


「どう、しよ…」


 相手が槇寿郎だからこそ。
 本気で家族になりたいと思えた相手だからこそ、抗い払えない程の悲痛と絶望が襲う。


「私…槇寿郎さんに、嫌われひゃった…」


 か細く消え入るような声が、微かに震える。
 はっとして顔を上げた杏寿郎は、常日頃見開いている双眸を尚も見開いた。


「家族に、なれな…て…」


 唯一覗いた緋色の右目に、じわりと透明な雫が浮かぶ。
 その雫が零れ落ちる前に、蛍の顔が俯き下がる。


「思い、伝えられなはった…上手く、話せなくて……ごめんなはい…」

「っ…蛍」


 下がる顔と同様に、堕ちていく蛍の心。
 それを防ぐように、杏寿郎は躊躇いながらも包帯の巻かれた頬へと触れた。


「そんなことはない。父上は、長年剣士として鬼を狩ってきた経緯がある。故に俺より強固な捉え方をしているだけだ。突然に蛍が鬼だと知れば、致し方ない反応だった。蛍の対応の所為じゃない」

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