第24章 びゐどろの獣✔
「鬼…?」
千寿郎の言葉に、蛍が反応を示した。
心霊現象なら身の毛もよだつが、鬼であるなら別だ。
寧ろ鬼であって欲しい。
それなら全く怖くない。
「…あ」
改めて、怯えたように体を丸める子供をよく見る。
するとすぐに気付いた。
「君…あの時の…」
「知っているんですか?」
出会ったのはたった二回。
それでも強烈な出会いだった為、よく憶えていた。
なのに与助や松風や静子など、目まぐるしい出来事にすっかり忘れていた。
この駒沢村に、異形の子供がいることを。
「うん。前に会ったほとがあるの。最初は驚いたへど、悪い子じゃなさほうだし。多分、大丈夫かも…」
「鬼じゃないんですか?」
「違う、と思うな…らって、血を見て嫌がってたし。って、ごめんね。子供みたいに」
「ぃ、いえ」
冷静になれば、小さな少年に縋り付くように抱き付いていたことが恥ずかしくなる。
慌てて体を離すと、蛍は立ち上がった。
「君も、ごめんね。吃驚させたかな」
「ひ…ひ…っ」
「大丈夫らよ。何もしないから。ほら、前に会ったほと、あるれしょ?」
「ひ…! ひ…!」
取り落としてしまった提灯は、暗い帰り道には必需品だ。
ゆっくりと近付きながら蛍が声をかければ、異形の子供は更に悲鳴を荒げた。
「ど、どうしらのはな…」
「もしかしたら姉上の顔がわからないのかも…」
「あ。」
歪な顔に驚いてしまったものの、自分だって包帯で顔をぐるぐる巻きにしている状態。お互い様だ。
「ご…ごめん、ね…らしかに、ほれは怖い…」
だからと言って包帯を外してしまえば、完治していない傷跡が顔を見せる。
幼気な子供なら更に怖がってしまうだろう。
どうしたものかと蛍は悩み足を止めた。
様子を伺う千寿郎は、未だ不安な顔をしたままだ。
「本当に、鬼じゃないんですか…?」
「今まで会った鬼みたいな、嫌な気配はひないしね…千ふん、この子見るの初めて?」
「はい」
(駒澤村で知られている子じゃないんだ…)
長年この村で暮らしている千寿郎が知らないとなれば、余所者なのか。
蛍は興味深く異形の子供を見つめた。