第24章 びゐどろの獣✔
「蛍が地獄を歩むのならば、その隣にいたい。許されないことをしてしまったことに変わりはないとしても、その一度の罪の為に、遥かに長い時を彼女は枷を付けて生きている」
許されることを蛍自身が求めていない。
だから「何故自分が」などと悲観の言葉を吐かないのだ。
一度だけ、女性としての機能を奪われたことで蛍がその弱音を口にしたことがある。
世界に向けて、弱々しく。
望んでいない時は女であることを押し付けられ、初めてそれを望んだ時は取り上げられた。
理不尽なまでの浮世の世界に、何故、と。
「…死ねば、後は罪を洗い流し進むだけだ」
それ程の重い枷を引き摺り生きていたのだ。
全てを終えて命尽きた後にまで、更に枷を引き摺り歩かせたくはなかった。
死ねば、命は平等だ。
「その道を俺一人が支えるくらいなら、許されてもいいだろう?」
そう願いたい。
「…煉獄…お前…」
同じ言葉を、乾いた喉で実弥が呟く。
義勇より幼稚などと杏寿郎は言ったが、違う。
心の底から愛する者を想うが故だ。
死して尚そこまで深く貫く想いを、実弥は見たことがなかった。
「……ッ」
それは槇寿郎も同じだった。
慈愛に満ちた苦い笑みで、告げた息子の顔など人生で一度も見たことがない。
知らないから咄嗟の否定もできなくて、初めてだったから怒りよりも戸惑いが勝った。
ただ理解はできてしまった。
もし瑠火が地獄を歩むなら、それでもその手を取ることができると迷わず思えたからだ。
二度と会えなくなるくらいなら、共に地獄にでも何処にでも歩もう。
瑠火と歩む世界は、自分にとっての地獄ではないのだから。
「覚悟と言いながら、幼稚なもので申し訳ありません。ですがそれが俺の本心です」
そこまでの想いなのか。
(そこまで、して)
「なので俺は行きます。蛍を追わせて下さい」
額を床に付ける程、杏寿郎が深く頭を下げて頼み込む。
その姿を一蹴することが、槇寿郎にはできなかった。