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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 小芭内も、槇寿郎も。厳しい言葉を投げかけてくるのは、それだけ思ってくれているからだ。

 そう、わかっていた。
 わかっているからこそ譲れないのだ。
 それだけ本気の想いを、自分も抱えたから。


「小芭内…あの伊黒の子か…」

「それでも俺や甘露寺の為に、許してくれました。大切な者が笑っていられるならと。…俺にとって蛍は勿論、父上と千寿郎も大切な家族です。誰も失いたくはありません」


 振り返ると徐に、杏寿郎は膝を折った。
 その場に正座し、畏まるように膝に手を乗せる。


「父上は、俺より遥かに沢山の悪鬼を滅してきた誇りある剣士です。その考えを改めろとは言いません。ただ俺の覚悟を知って欲しい」

「覚悟だと…鬼を迎え入れたくらいで何を覚悟などと」

「──父上」


 凛と澄んだ声が響く。
 圧する訳でもなく、窘(たしな)める訳でもない。
 ただ真っ直ぐに呼びかける杏寿郎の曇りなき声に、槇寿郎は自然と口を閉じた。


「一人の鬼を、俺は愛しました。弱き人々を守る為に剣士となった俺ですが、今は彼女の為にこの力が在ることに意味を感じています。…だからこそ、お館様とも契りも交わせた」

(…契りィ…?)


 それは実弥にも初耳だった。

 彩千代蛍という鬼を監視する為に杏寿郎、義勇、実弥の三人がそれぞれに役割を与えられたことは理解している。
 ただそれは柱全員の前で命じられたもので、契りとは違うものだ。

 恐らく杏寿郎だけが、耀哉と言葉を交わしたのだろう。
 柱として、そして蛍を愛する者として。


「蛍が今後人を喰らうことは絶対にないと思っています。だからこそ、その絶対が覆された時は、俺の手で蛍の頸を斬り落とします」


 迷いはなかった。
 はっきりと斬首を口にした杏寿郎が、一度口を閉じる。

 ひと呼吸置くと、静かに耀哉と交した"契り"を告げた。










「そして全ての責任を負って、俺自身の命も絶ちます」

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