第24章 びゐどろの獣✔
全身の血液が沸騰するようだった。
なのに急速に肌が凍るように冷えていく。
呼吸の仕方を一瞬忘れた。
周りの音が聴こえなくなり、キーンと耳鳴りのようなものがする。
痛い。
何が。
死。
誰が。
本当に?
『──杏寿郎』
最後に見たのは、火傷などものともしない笑顔だった。
そんなものでは霞もしない、あの笑顔が──
本当に、もう見られないのか。
「………要」
ようやく絞り出した声が現実を引き戻す。
静かなその声を拾い上げた鴉は、停まった窓枠の上で応えるように一つ羽搏いた。
「千寿郎を連れて来い。話を聞く」
「! 何処へ行く…ッ」
「蛍を捜しに行きます」
「死んだと言っただろう!」
「この目で確かめるまでは信じません」
要に端的な指示を飛ばすと、杏寿郎は玄関へと向かった。
食い止めるように槇寿郎の手が、背へと伸びる。
「この…ッ!」
「──!」
背中の服を鷲掴まれ、強く引かれる。
強制的に振り返らされた杏寿郎の頬に、がつんと重い拳がめり込んだ。
槇寿郎の拳で吹き飛ばされた杏寿郎の体が、台所へと派手な音を立てて落ちる。
「死んだ鬼の亡骸など塵一つ残らん! 確かめることなど不可能だッ!!」
「ッ…」
「テメェ…!」
「不死川!」
槇寿郎の言うことは尤もだ。
だからと言って鵜呑みにできる程、説得力のある話ではない。
苛立ちのままに実弥が拳を握る。
その拳が殴りかかる前に、床に手をつく杏寿郎に止められた。
「手を出すな。これは、俺と父上と蛍の問題だ」
「っ…」
杏寿郎の口から滴る血が、ぽたりと木目の床を濡らす。
その血を拭うこともなく、杏寿郎は物が散乱した床を見開いた目で見つめていた。
「俺達の問題なら答えはもう出ているッあの鬼は重傷を負って外へ出た。人を襲う力も残ってないだろう。下手な望みなど持つのはやめろ…!」
「…蛍は人間を襲いません。鬼の身体で、人の心を持った女性です。それがどれだけ苦難の道となろうとも、彼女自身が選んだ生きる道です」
ぐしりと口元の血を拭う。
床の上で握った拳をそのままに、杏寿郎はゆっくりと立ち上がった。