第24章 びゐどろの獣✔
「蛍に、何をしたんです。千寿郎は」
「同じことを何度も訊くなッそこまで脳味噌が腐れたか!」
「──オイ」
圧のある低い声が、その場の空気を遮る。
「黙って聞いてりゃ勝手なことをずけずけ言いやがんなァ…」
それでも抗わない杏寿郎の胸倉を掴む手を、鷲掴んだのは実弥だった。
「息子ならわかんだろうが。コイツが考え無しに愚問を吐く訳ねェだろォ。彩千代蛍を鬼として処理したとしても、弟はどうした。千寿郎は、なんで此処にいねェんだ」
「貴様は…風の」
「俺のことなんざどうでもいい。テメェの息子はどうしたって訊いてんだよ」
ギリ、と槇寿郎の手首を掴む握力が増す。
軋む骨の悲鳴を感じながら、槇寿郎も目の前の血走った眼を睨み返した。
「貴様には関係ないことだろう…ッ」
「関係あるとかないとかンなことどうでもいいんだよ! 守るべきもんをどうしたって訊いてんだァ! まさかテメェ、トチ狂って息子にまで手ェ上げたんじゃねェだろうなァ…!」
親だから子に手を出さないなどと、そんな信用はどこにもないのだ。
実弥の実父である恭梧(きょうご)が、そんな人間だった。
自分の気に入らないことがあると、簡単に妻子に手を上げては拳を振るった。
まだ年端もいかない幼い弟妹達にも容赦なく。
その光景は何年経とうとも、父も母も弟妹達も亡き存在に成り果てようとも、実弥の中から簡単に消えるものではない。
骨を折らんばかりの風柱の握力に、とうとう槇寿郎の手が杏寿郎の胸倉から離れた。
「ッ千寿郎なら自室だ! 部屋に籠るよう言ってある…! 金輪際、鬼と関わらんようにな!!」
槇寿郎の言い分に安堵したのも束の間、では蛍はどうだと別の危機感が勝った。
圧を滲ませる実弥の肩に手を置いて、杏寿郎が一歩前に進み出る。
「それでは蛍はどうされたのですか。父上の口からしかと答えを聞くまで、己の判断だけで決めつけることはできません」
「あれなら此処から追い出した。太陽が沈む前に追いやったんだ、どうせもう朽ちているッ」
「ンだとォ…」
「不死川」
みしりと首筋の血管を浮かせる実弥の肩を、ぐっと強く掴む。
頸を横に振ると、杏寿郎は冷静に思考を回した。